1月.新年

 

 2010年、初の出勤日。嶋本はロボットの姿を見つけるなり、駆け寄った。
「真田さん! 大丈夫ですか!?」
「何がだ?」
 文法上いろいろなものが抜けた嶋本の言葉から、何を答えるべきかプログラムは判断できなかったが、エラー箇所はきちんと質問に形を変えて出力されている。とりあえず、ロボットは大丈夫だ。
 しかし今の嶋本には、本来の冷静さがなかった。
「ほら、2010年になったでしょ!」
「なった」
「大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「あかん!」嶋本は悲痛な声をあげた。「2000年問題や!!」
 そんな嶋本の大声に基地中が静まり返るが、黒岩がすぐさま嶋本を取り押さえた。
「2010年だろーが。2000年問題はお前の頭だ!」
 その黒岩の言葉に、基地はいつもの様子を取り戻し、わっと笑いに包まれた。
「どうしたお前。落ち着け」
 しかし嶋本は興奮した様子で。
「だって! 2009年から、2010年になったんですよ! 1999年から2000年になったとき、システム関連あんなに騒ぎになったのに!」
「あー、そうだな。だが、真田を見てみろ。何か問題があるか?」
「何言ってんですか! 俺の質問に答えられんかったやないですか! あかん。何か起こる前にメンテ出さな……!」
 今にも受話器を取りそうな嶋本を、黒岩はがっしりと捕まえる。
「らちがあかん! 誰か、2000年問題について調べてくれ!」
「もう調べてあります」
 そう答えたのは高嶺だ。
「2000年問題の原因は、プログラム内で、年を、西暦の下2桁で設定していたことですね。99年の次00年は、2000年ではなく1900年として見なされてしまうことが問題だったそうです。さらに、それが考慮されていたとしても、2000年が400年に1度しかない閏年であることが考慮されていたなかったことが問題になったようですね。これらのことが対応されてないとしても、2000年問題に関して、90年は心配いりません」
 いつもの穏やかな笑顔に、しかし嶋本はいつもの冷静さを取り戻せない。
「ならなんで、真田さんと会話がなりたたへんねん!」
「シマが、豪快に冷静さを欠いているからですよ」
「俺は冷静や!」


――マ、シマ。
「え……、何」
「大丈夫ですか」
 目の前には高嶺がいて、その後ろには真田がいる。周りを見回してようやく、嶋本は仮眠していたことを思い出した。
「なんか、変な夢見てた。2010年になって、真田さんの2000年問題を心配するっていう」
「つい2時間前に2009年になったところだっていうのに、もう来年の心配してたの?」
「うん。……え、年明けたん? 11時なったら起こしてって言うたやん!!」
「だって起きないんだもの。ねぇ、隊長」
「ああ。誰が起こしても起きなかった。今は、うなされていたから無理やり起こした」
「まーじーでー……」
 がっくりとうなだれる嶋本に、真田はかまわずに挨拶をする。
「明けましておめでとう」
「おめでとうございます……。高嶺、年明けそば、よろしく」
「はいはい」
「愉快な一年の始まりになったな」
 真田の満足そうな声に緩む頬を、嶋本は必至で隠した。


(おわり)


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