11月.ポッキーの日
「嶋本、ポッキーゲームをするぞ」
ロボットが突然そんなことを言い出した。しよう、ではなく、するぞ、と言われたことに嶋本は違和感を覚えた。
「……一ノ宮さんにでも教わりましたか。ポッキーの日はポッキーゲームをしなければならない、とでも」
「そうだ」
「しよう」と「するぞ」の違いは、拒否権の有無だ。「しよう」は提案。拒否できる。しかし「するぞ」は命令、もしくは義務。文法から、ロボットがインプットした内容を予想できた。
「あ〜、しなければならないわけではないんですよね、ポッキーゲーム」
また嘘を教えられたのだと伝えることは躊躇われた。ロボットには疑うことが出来ない。あの人は信頼ならないと教えてしまったら、ロボットの中に出来るプログラムはきっと、その人の発言だけインプットしないと言うものだ。
それに何より、このロボットは、嘘を教えられたと分かると悲しむ。
「一ノ宮さんの伝え方がまずかったですかねぇ……。とにかく、ポッキーゲームは、ゲームなんでね。しかるべき時にしたらいいし、別にせんでもいいんですよ」
フォローを入れて、訂正をした嶋本は話を終わらせようとしたが、気付いてしまった。用意されたポッキーに。ロボットの手に、あの赤い箱が握られている。
「とりあえず、ポッキーは、一ノ宮さんに返しましょうか?」
「これでやれと渡された。返す必要はない」
「ほな、おやつにさせてもらいましょうね」
「したい」
「は?」
「ポッキーゲーム、しよう」
願望、そして、提案。嶋本は見事なプログラムに感心して、そして呆れて、途方に暮れた。このロボットは諦めることを知らない。欲が満たされるまで引き下がらない。
「一回だけですよ」
嶋本はポッキーを一本取り出してくわえた。
ロボットが反対側をくわえると、嶋本がスタートを唱えた。
嶋本はすぐに、ポッキーを折ってゲームを終了させた。
「折ってもうた。俺の負けですわ」
そしてロボットの口に残ったポッキーを取り上げて食べてしまった。
ロボットはわざと折られたことなどわからないので、問題なく欲が満たされた。嶋本には、ロボットが他の人ともポッキーゲームをしたがるのではないかと心配が残った。しかし「一回だけですよ」の言葉がうまく作用したのか、ロボットがポッキーゲームをしたがることは二度となかった。
(おわり)
