10月.ハロウィン

 

 10月31日。
 この日、嶋本は新人教育に駆り出されていたため、基地ではここぞとばかりにロボットがターゲットにされていた。
「トリックオアトリート!」
 言われたロボットは、当然、至極真面目な顔で答えた。
「すまないが菓子を持ち合わせていない。しかし、悪戯されたところで、期待するような反応は示せないだろう。昼休憩まで待ってくれれば、菓子を持って来よう。どうだ」
「あ、はい……」
 ロボットにお決まりのセリフを言って、前述の通り真面目に提案を返されて、その上で悪戯を決行した者は、一之宮だけだった。
 一之宮は、思いつく限りのセクハラをしたが、何せ相手はロボットなので動じなかった。そして、「お前はもうちょっと人間らしい反応が出来たらいいのに」と捨て台詞を残して去って行った。
 そうとは露知らぬ嶋本はこの日、喜々としてロボットの家に寄った。
 前回訪れた際、甘いが食べやすい、美味しいお菓子が出された。後で調べたところとても高級なもので、自分のためだけに購入するには気が引けた。ロボットは飲食しない。基地長は頻繁には訪れない。それならば、まだお菓子が残っている確率は非常に高い。いや、絶対残っている。今日は生意気なひよこどもの相手をさせられてひどく疲れた。甘いものが食べたい。あの甘い美味しいお菓子、ロボットのところに行けば食べられる。嶋本はそう信じ込んでいた。
 しかし、出されたのは、黒豆のおかきだった。これも美味しい。塩味がきいていて、豆は主張しすぎず、おかきはさくりさくりとほどけるようで。
 だけどこれは、あの甘い美味しいお菓子じゃない。あれは紛れもない、洋菓子だった。菓子には疎い嶋本でも、これだけはわかる。あれは洋菓子の、焼き菓子だ。
「おかきにお茶。ほっとしますわ」
「そうか」
「実は、これまで何も言わずに食べてきてましたけど、甘いもんよりは、しょっぱいもんのが好きなんですよね」
「そうなのか」
「でも、こないだのお菓子はめっちゃ美味しかったです。甘かったけど」
 これが人間相手であれば隠された本当の気持ちをくみ取れるだろうが、相手はロボットなので伝わらない。
「ああ、大分喜んでいたな」
「え、俺そんな反応してました?」
「いや、基地の皆が」
「基地の皆?」
「今日ハロウィンだろう。朝からいろいろな人にトリックオアトリートと言われたので、残りを全部持って行った」
「ええ〜」
 まったくの予想外の出来事が起きていたことに、嶋本は何とも言えないショックを覚えた。
 お菓子を他のやつに取られた。しかも、ハロウィンを満喫して。そんなの、自分だってしたい。
「それ、俺おらんかったしからかわれたんですよ。きっと」
「そうなのか?」
「そうです。俺が皆の立場やったらするし」
「そうなのか」
 結局嶋本は楽しみにしていたお菓子を食べることは出来なかった。下心で訪ねた罰だと自分に言い聞かせるも、ショックはぬぐえなかった。
「……ハロウィン、盲点やったわ」


(おわり)


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