可愛いひと。
たまの休みに、恋人が他の人といるところに一人で出くわしてしまったら、そりゃ不機嫌にもなるってもんで。
でも、恋愛に疎い恋人には、なんで俺が不機嫌なのか、さっぱりわからないらしい。 後ろめたいことなど何もないのだろう。だからこそ鈍さに拍車がかかっている。
「ねぇ、何怒ってるんだよ」
「何でもなか」
しかも、恋愛には疎いのに変なところで鋭いから、嫌になる。
珍しく夜部屋に来たから喜び勇んで上げたというのに、ずっとこの調子だ。
「怒ってるじゃない」
「……」
まさか、嫉妬しただなんて。独占欲でイライラしているだなんて。そんな格好悪いこと、知られちゃいけない。知られるわけにはいかない。
「怒っとらんばい」
いい加減疲れてきてため息混じりに言えば、兵悟君の瞳に不安の色が混じった。
兵悟君の大きな瞳は、口よりも多くのことを語る。
卑怯だ、そんな目。
兵悟君が不安になることなんて一つもないのに。まるで俺が悪いみたいだ。
「兵悟君今日は何しとったと?」
努めて優しく言えば、兵悟君の瞳の不安の色は、少し和らいだ。このまま話をそらしてしまえばいい。だってこの言い争いは、どちらにも非がない。続けるだけ無意味だ。
「……ちょっと、ね?」
兵悟君はこちらの様子を伺いながら、照れくさそうにそれだけ言った。続きは、もじもじしてなかなか言ってくれない。
覗き込む瞳からは、どんどん不安の色が消えていった。
実は俺のために何かを買いに行ってくれたりしたのだろうか。サプライズをたくらんでいたのに、それを俺に見られてしまった、とか。
いやしかし。兵悟君に限って、そんなマンガやドラマみたいなことにはなり得ない。
瞳から不安の色がなくなったころ、兵悟君はようやく口を開いた。
「服を買いに行ったんだけどね、結局、買わなかったんだ」
「服? 誰の?」
「え? 俺のだけど……?」
「ああ、そう……」
期待はしていなかったけど、がっかりだ。なんかもう、いろいろ、がっかりだ。
「盤君は……」
「ん?」
「盤君は、オシャレだよね。良いなぁ、俺オシャレって全然わかんなくって」
「……俺に服選んでほしかと?」
まさかと思いながらもそう返してみる。考えなしのこの恋人には、他意などないのだ。きっと必死に否定される。
「まさか! 思ってることを言っただけで、全然、そんなこと考えたこともないよ!!」
ああでも、これは良い流れかもしれない。
「じゃあ、考えてみらん?」
「へ?」
「何や、俺とは買い物ば行けん言うと?」
「いや! そうじゃないよ!!」
「じゃあ、何?」
「……選んでくれたら、嬉しい」
兵悟君はなぜか、照れくさそうに言った。恋人として意識してくれたのなら、嬉しい。
「ふぅん……。兵悟君がそこまで言うとやったら、コーディネートしちゃろうかねぇ」
「何だよその言い方!」
「良かろうもん、事実ばい」
「事実?」
「兵悟君は裏の気持ちに鈍かけん、俺が引っ張り出してやったったい」
「裏の気持ちぃ? ……いや、まあ、そうなのかもしれないけど」
「やろ? やけんこれからは、兵悟君は大人しく俺にコーディネートさるっこと!」
「え? ああ、うん」
「服だけじゃなかとよ?」
「?」
「兵悟君、丸ごと。俺がコーディネートするったい」
「丸ごと?」
「そう、丸ごと。見た目も、心も」
「こころ……」
兵悟君はきょとんとこちらを伺う。わけがかわからないまま、瞳をキラキラさせている。
なんて鈍くて、可愛い子。
「それからカラダも」
ニヤリとそう言えば、兵悟君は顔を真っ赤にした。
(おわり)
地の文が盤の語りなのに標準語なので書きながら違和感あったのですが、皆様は違和感無く読めましたでしょうか。某SNSで聞いたところ、最初は違和感あったけど普通に読めた、とのことだったのでUPしちゃったのですが、やはり気になります。
でも私、盤の方言、わからないんですよね(-A-。)いや、盤のっていうか、方言全然わからないんですけど( ´Д⊂ヽウェェェン
