お待ちどう様

 

 盤君に、好きだと言われた。いくら鈍い俺でも、わかる。これだけ真面目に言ってくるのだ、盤君の言う「好き」は、恋愛感情だ。
 とにかく驚きすぎて、「えええええ!? マジで!?」なんて言ってしまった。だって、嫌われているものだとばかり思っていたから、友情を飛び越えて、恋愛感情だなんて、驚く。でも盤君はそんな俺の反応に、怒るどころか、ふてくされもしなかった。俺の間抜けな問いに「マジで」と丁寧に返事をして、こう聞いてきた。
「てか兵悟君、気持ち悪くなかと? 同性に告白されたとぞ?」
 そして俺はようやく、自分の驚くポイントのずれに気が付いた。
「あ、ホントだ! 俺、嫌われてるもんだとばかり思ってたから、その驚きしかなかった」
 そう言うと、盤君は呆れた様子で改めて聞いてきた。
「それで、気持ち悪くなかと?」
「別に……。もしかしたら、驚きでわからないだけかもしれないけど」
「そう……」
 盤君は少し、ホッとしたような表情になった。
 別に、気持ち悪くはない。嫌われてるよりはマシだとも思う。ただ、俺が盤君に恋愛感情を抱いているかといったら、否、だ。ただ、一つ、気になることがある。
「ねえ、盤君。もし断ったら、これから俺達、どうなるの?」
 断ったら、気まずくなる。それは考えなくてもわかる。でも、そうなるのは嫌だった。寂しいというわけではないけれど……うん。失いたくないんだと思う。
「……気まずいけん、避くっと思う。俺は、想いを知られたからには、友達になんて、戻れん」
「それは嫌だ」
 即答すると、盤君はわずかに目を見開いた。
「俺、盤君に恋愛感情は抱いてない。でも、盤君を失うのは、嫌だ」
「……」
「付き合う」
「は?」
「盤君を失うくらいなら、付き合う」
 俺がそう言うと盤君は、キレた。
「はぁ!? 何言うっとっとや!? 恋愛感情なかとやろ? 付き合うって事は、キスも、セックスも、すぐ先にあっとぞ!?」
「! セッ……!! それは嫌だ!」
「嫌だじゃなか! 俺は……!! 俺は、付き合い始めたら、兵悟君を待ってやれる程、自分を抑えられる自信、なか」
「……」
「それに、失いたくなかけん付き合うとやったら、別に俺じゃなくてもよかってことやろ? 誰に告白されてもOKすってことやろ?」
「……」
「ゆっくり、考えてくれんね」
 そう言うと盤君は去っていった。
 これが大体、2ヶ月前の話。特救隊新人研修も、折り返し地点に付いた頃だ。
 今、盤君は、いらいらしている。ゴールデンウィークに入った辺りから、いらいらしている。
 『ゆっくり考えてくれんね』と言われたからまだ考えてるんだけど、それが悪いんだろうか。でも、考えて考えて答えが出ないのだから、しょうがない。
 第一印象は良かった。でもすぐに、嫌なやつだとわかった。何かとつっかかってきて、イライラさせられた。盤君の考えは俺の考えと対極にあって、全然理解できないし、そのせいで衝突ばかりしてきた。競技会の時も、星野君が除隊になったときも、リペ降訓練のときも、ましまでのサーキット訓練のときも。好きだと言われる前も、言われてからも、盤君にはなんの変化も無くて。
 でもそれは、レスキューだけの話だ。俺は盤君のこと、何も知らない。
 ねぇ盤君、判断するのに材料が無いよ。俺は盤君の何を見て考えれば良いのかな。
 ああ、それでも。
 盤君の素の部分がポロリと見えたときは、放っておけないと思った。同時に、嬉しかった。もっと、素の盤君を知りたいと思った。
 一緒にいる時間が増えたら、もっと見れるかな。見せてくれるようになるかな。
 やっぱり、避けられるなんて、失うなんて考えられないから。こんな理由じゃ、駄目かな。
「盤君!」
 官舎前で皆と別れてから、盤君を呼んだ。ゴールデンウィークの疲れがまだ取れてないのだろう盤君は、面倒そうに振り向いた。大きな声を出しすぎたのか、皆まで振り向いた。
「何や?」
「この前の話の続き!」
「この前?」
「ゆっくり、考えた」
「……」
 そこまで話すと、皆はわけがわからないまま気を使って先に帰ってくれた。皆が階段を上るのを確認すると、盤君は「ここじゃ話せんな」と言って先を歩いていった。告白は基地だったのに。
 着いたのは川原だった。盤君が腰を下ろしたので、俺も隣に腰を下ろした。
 ……。
 気まずい。
 何も言えずにいると、盤君が「で?」と聞いてきた。
「どうすっと?」
「……俺、やっぱり嫌だよ。盤君を失うのも、盤君と、き、キスとか……するのも。考えられない」
「うん」
「だからとりあえず、盤君と付き合う、他の理由を探してみた」
「……」
「100キロ行軍の時、音楽聞いてたらどんな風景でも映画みたいに綺麗に見えるって言っただろ? それ聞いたとき、俺、なんか悲しかった。何が盤君をそんな風にしちゃったんだろうって。でも、同時になんか、嬉しかったんだよね、盤君の内面を見れた気がして。で、もっと盤君を知りたいと思った。もっと、内面を見せて欲しいと思った」
「……」
「それで、何て言うんだろう。もっとこう、深い所? で、話できるようになったら良いなと思った。付き合ったら多分、一緒に居る時間増えるだろう? そしたらいずれ、そうなれないかなって」
「やけん、付き合う?」
「こう思うのは、盤君だけだから。盤君を選ぶ理由には、ならないかな?」
「それで?」
「それで……?」
 すると急に視界から川が消えて、視界いっぱいに空が広がった。そこへ、いらいらを隠しきれない盤君の顔が入ってくる。
 俺は押し倒されていて、盤君は俺の腹に跨っていた。手は盤君の両手でそれぞれ拘束されている。
 盤君はメいっぱい顔を近付けて、囁いた。
「付き合ったら、こげんことになるて、言うたよね?」
「うん」
「そいでん良かと?」
「やだ」
 言って、両足を思い切り振り上げる。すると上半身も浮き上がって、腹に乗っていた盤君は前のめりにバランスを崩した。その拍子に両手の拘束が解かれる。俺はそれを逃さずに、盤君の下から逃げた。
「だから、全力で逃げる」
 盤君は、ポカンとこちらを見ていた。
「今みたいになったら、俺は全力で逃げる。それでも捕まった時は……いや、それでも逃げるけど、しょうがない」
「は?」
「ていうのは、だめ?」
 聞くと、盤君の表情が少しずつ笑顔になっていった。そしてフッと鼻で笑った。
「よかよ。釈然とせんけど、一応は覚悟してくれたみたいやし?」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべてそう言う盤君の目は、なんだかいつもより優しかった。

 あ、今の顔好きだ。なんて思ったことは、しばらく秘密にしておこう。


(おわり)

<<Mainへ