好きなんだもん
最近、嶋本の様子がおかしい。気がする。
出動時は、普段通りだ。二人きりの時も。
訓練日。それから、当直日、基地で。どうも、避けられている気がする。少なくとも、目が合えば逸らされる。
逸らされている、と、思う。ごくごく自然な動作だから、自信はない。
「YO、真田! なんなんだ最近の嶋本は!!」
「嶋本がどうかしたんですか」
「どうしたじゃねぇよ。なんなんだ最近の付き合いの悪さは!」
「付き合い……悪いんですか?」
「っかー!! お前がそんなだからアイツも来ねぇんだ! 今夜はお前が誘えよ。お前が誘えば一発だ!!」
黒岩さんはそう言ったが、嶋本はいい顔をしなかった。
「今夜、ですか?」
「ああ。先約でもあるのか?」
「いや……先約は、ないんすけど……」
「そうか。いや、無理強いはしない。……黒岩さんが気にしていたから、早いところ付き合っておいた方が良いぞ」
「……はい」
※ ※ ※ ※ ※
「それでお前、置いてきたのか!」
「ええ」
「もうちょっとねばれよ! ったく」
こうして、ビール片手の会議が始まった。
「真田が誘っても来ねぇってのは相当だぞ。何か心当たりはないのか?」
「何も……」
「高嶺は? 何か話聞いてないのか?」
「聞いてません。ただ、最近元気がないのは確かですね」
そして、アルコール入りの会議は俺の発言を一切無視して、収束した。
「じゃあ高嶺、セッティング頼むぞ! 背が低くて可愛いどころな!」
「努力します」
嶋本を元気付けようコンパは、来週開催。
いざ開かれたコンパは、それなりに盛り上がっている。しかし、嶋本はどうもぎこちない。
今日もやはり、誘われて一度は断った。しかし、自分のためにセッティングされたと知って、しぶしぶの参加だ。優しい嶋本に、断れるはずがなかった。
そして、少しわかった。
嶋本は、何か無理している。何か、遠慮している。目が合って、でもその瞬間ふいと逸らされる目は、強く何かを言いたそうなのだ。しかし嶋本は、これまでに何も言ってきていない。おそらく言うつもりがないのだろう。
聞けば、話してくれるだろうか。
きっと、話してくれないだろう。それならばきっと既に話してくれている。
では、どうすれば良いか。
――聞くしかない。待っていては、いつまで経っても話してくれないだろう。
俺は、コンパが一度お開きになるのを待った。
店を出て、二次会の話が出たところで、わざと大きな声で嶋本に話しかけた。皆の注目を集めるためだ。
「嶋本。具合でも悪いんじゃないのか? 顔色が冴えない」
「え、そんなこと、」
ありませんよ。とは言わせなかった。額に手を当て言葉を遮った。
「少し、熱い。無理はするな」
「……」
「明日は当直だからな。悪化されては困る。帰ろう」
そして皆へ言った。
「そういうわけですので、嶋本は帰らせます」
それならしょうがない。場はすぐにそんな空気になって、別れの言葉を投げかけてきた。
「帰ろう」
肩をひとつぽんと叩けば、嶋本は大人しく俺の後ろに着いて来た。
会話はなかった。ただ、駅を出てしばらくした所で、後ろにいたはずの嶋本が横に並んでいた。やはり、何か言いたそうだった。
「なんだ?」
「熱、ありませんけど」
「知ってる」
「……」
「あのままだったら、お前は二次会にも参加しただろう? 無理はするな」
「無理?」
「そもそも今日のコンパ自体乗り気じゃなかったじゃないか。無理して、皆に合わせることはない」
「……」
「……家で、話そう」
そして家について、ソファに腰を落ち着けて。でも、嶋本は何も話してくれない。それどころか、目を合わせてもくれない。膝に乗せた手を握り締めて、まるで叱られている子供だ。
「嶋本、」
ぐっと握り締められた手に、そっと手を重ねてみた。拒否はされなかった。
「最近、嶋本の様子がおかしい気がしてはいたんだ」
言うと、握り閉められた手に力が入ったのがわかった。
「でも自信がなかった。普段と変わらない時もあったから」
「……」
「でも、黒岩さんも、高嶺も、気にしていたから。気のせいじゃないんだとわかった」
「……」
「嶋本。話してくれないか? 俺では力になれないのか」
また、握り締める手に力が入った。
「……なりません。……俺の、問題です」
「……だが、嶋本一人の問題ではなくなっている。話してくれないか」
「話せません。話しても、困らせるだけや」
「嶋本……」
頑なに拒む嶋本に、思わず呆れたような声が出てしまった。しかしそれが利いたのか、嶋本はこちらを向くと、一気にまくし立てた。
「真田さんが誰かと話すのが嫌なんです! 聞きたくないんです! 真田さんが誰かに触れるのも、触れられるのも、嫌なんです! そんなの見たくないんです! こんなこと言われたって、真田さん、どうしようもないでしょう?!」
それはつまり、
「嫉妬か?」
聞くと、嶋本は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「嫉妬ですよ!」
そして開き直ったのか、これまでの沈黙が嘘のように話し出した。
「真田さんに、誰ともスキンシップ取るな言うたかて、無理な話やないですか。ほんなら、仕事中は俺が耐えるだけの話やし、飲み会とか、参加せんかったらええだけの話です」
「だが、それでは解決になっていない」
「わかってます! でも、こんなんどうしようもないやないですか。他にどうしたらええんです」
「そうだな」
「ね?」
「では、仕事中目が合ったときにふいと逸らすのはやめてくれないか」
「へ??」
「言われてみれば、合点がいく。仕事中目が合って、でも逸らされるときは、誰かと話をしているときだ。もう話は聞いたし、何も逸らす事はない」
「は??」
「飲み会も参加しろ。どうせ大概俺の横にいるんだし」
「ヤですよ! 黒岩さんに捕まったら、横にいるの俺じゃないですもん」
「そんなことにはさせない。だから飲み会にも参加しろ」
「はぁ?」
「うん。これで問題は解決だ」
「いやいや、解決してませんよ」
「何がだ?」
「俺の嫉妬が! 置いてけぼりです。全然ついていけてません! それこそ根本的な解決になってへん!」
「問題無い」
言って、嶋本の肩に手を乗せた。
「わからせてやる。嫉妬なんてする必要はない、と」
(おわり)
