ヒヨコ

 

 ひねくれ者のメッシュが、ヒヨコ達の輪から一羽ぽつりと外れ、倉庫の前で惰眠を貪っている。
 それを見つけた親鳥がすぐさま駆け出したのは、心配したからなどではなく、蹴りとばすため。
「お前はこんな所で寝て、ヘリの下敷きにでもなりたいんか」
 言いながら脇腹を軽く蹴れば、ヒヨコはもそりと頭のみを上げた。
「恵子たんならやりかねんね」
「横着せんと、起きぃ」
「だるかぁ」
 言うとヒヨコは頭を下ろし、また寝の体勢に入った。次こそ親鳥は可愛くないヒヨコを蹴り飛ばす。
「シャキッとせぇ!!」
 容赦ない蹴りに、ヒヨコはその場にうずくまる。
「骨とか折れたらどげんすっと」
「程度がわかってるからやってんねん。立てるやろ、立て」
「軍曹酷かぁ」
 言いながらヒヨコは体を起こすが、立ちはしない。軍曹と呼ばれた親鳥はやれやれと腰を下ろし、目の高さを合わせる。このしょうがないヒヨコはあまり目を見ることをしないのだ。
「それは見捨てられた時に言うんやな」
「……見捨てると?」
「場合によるわな」
「見捨てんで」
「情けない声出すな」
「見捨てんで」
 今にも見捨てられるかのような声に、親鳥は一つため息を付く。見捨てられたないなら、それなりの努力をせぇ。
「……じゃあ軍曹も努力しとーとやろうね」
「してんで。日々凄まじい努力をな」
「それで報われとーと?」
「現状維持や」
「おいは報われたい」
 ようやく上げられた瞳は上目遣いで、それはそれは情けないもので。
「ならそれだけのことしいや」
 親鳥は強い瞳で目を合わせ言ったが、ふい、とそらされた。
「報われるやろうか」
「知らん」
「おい軍曹んこつ好いとおんやけど」
「ほお」
「好いとおんやけど、軍曹」
 ヒヨコは伺うように、目を合わせ言った。
「で?」
「おいは報われる?」
「それこそ凄まじい努力が必要になるな」
「……報われる気がせん」
「やる前から何言うてんねん。そんなんやったら、報われるもんも報われへんわ」
「報われんとやったらせん」
「ほんなら見捨てるだけや」
 言うと親鳥は立ち上がった。ヒヨコは慌てて顔を上げる。
「努力しても報われんもんは報われん。でもな、その成果は目に見える形で現れるから、その分だけ認められる」
 未だ情けない顔のヒヨコに手を差し伸ばす。
「俺はそれだけで十分やけどな」
 好きだと連呼していたヒヨコは、さして嬉しくもなさそうに手を取り立ち上がる。
「おいは足りん」
「足りるように頑張ればええやんか」
「結局そこに落ち着くとや」
 ヒヨコは苛ついた様子で、しかし真っ直ぐに親鳥の目を見る。
「おいの気持ちば流して、その癖頑張れち言って、それやのに一っつも期待させてくれん。……はっきり言ってくれんね。真田さんば好いとおとやろ?」
「言えばお前、頑張らへんようなるやろ」
「おいは、教育係りとしてやなくて、軍曹個人の気持ちが知りたか」
「一人志気が下がる者が出れば、周りの志気も下がる」
「諦めさせてくれんね」
「これまで以上にやる気が無くなれば、見捨てることになる」
「……卑怯な人やね」
 言ったところで、親鳥は建物内から呼ばれた。ほぼ反射のように声の方へ返事をし、ヒヨコには顔も見せずに「何とでも言え」と言い放った。そして呼んだ人物の方へと駆けていくと、ヒヨコには見せたことのない綺麗な表情で会話を始めた。
 一羽取り残されたヒヨコは親鳥を見送ってしまったことに後悔し、しぶしぶと輪に入って行った。

(おわり)

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