お題12.しりとり
特急電車に乗り込み自分の座席を見つけると、偶然にも、斜め前の乗客が甚だった。
「お! 甚〜! すごい偶然だなー!!」
だけどもとより反応のうすい甚は、新聞を見たまま何の反応も示さない。
新聞をたたんだところで、さっそく話しかける。
「なぁなぁなぁ」
「ん?」
「昔、祭で来てくれたバンド覚えてるか?」
「あの人たち、何やってるんだ?」
「今はもう解散して、新人バンドをスカウトして育ててるらしい」
「発掘か」
「そゆこと! ダイアナソウルスってバンド名がかっこよかったよな!」
「恐竜みたいだな」
「でな、今の新人育成っぷりを、雑誌で読んだんだ。まずは、候補バンド5万組をふるいにかけて、勘だけで、5組にしぼる」
「ずいぶん荒っぽいな」
「5万本のデモテープ聴く作業想像してみろよ!」
「ああ、骨が折れる」
「だろ?」
まだ続きがあるのに、マイペースな甚は何やら切符を眺め出した。しょうがないやつだ。
「あれ? お前の切符俺のと違うなぁ。お前乗る電車間違えてんじゃねぇか? 何て書いてあるんだ?」
「1300到着予定」
「結構時間あるなー」
「しりとりでもするか」
「やめておけ! 言っとくが俺はめちゃくちゃ強い! お前など弱すぎて話にならん!」
甚はやはり無反応で、しりとりは甚から勝手に始まった。
「電車」
「車掌車!」
「写真部」
「ブラスバンド部!」
「ブリーフケース」
「お、それは書類鞄のことか? それともパンツ入れか? まあ、いいや。す、す……。スーツケース!」
「スモモ」
「桃!」
「もも、もも……。桃太郎」
「浦島太郎!」
「うなぎ屋」
「焼き鳥屋!」
「野心家」
「空手家!」
「烏瓜」
「お。それは瓜のことか? それともカラスを売っている人のことか? まあ、いいや。り、り、リンゴ売り!」
「理科」
「蚊!」
「か、か、枯葉」
「母!」
「博士」
「背中合わせ!」
「星座早見表」
「運動場!」
「宇宙ステーション。あ」
「よぉっし!」
「だめだ」
「一人でやってろ」
「……一人でやっても、つまらない」
「しかしまさかお前もこの電車に乗ってくるとはなぁ。……ずっと一緒に行こうな」
甚は返事をしない。だけど、もとより反応の小さいやつなので気にしない。
甚が窓の外に目をやった。つられて外を見ると、競馬場があった。
「おお! 競馬場が見える! あ、そうだ俺馬券買ってあったんだ。もう結果出てるはずだけど、どうなったのかなぁ。これすごいんだぜ! 当たったら、一億円なんだ!! ……って、アレ? なんで競馬場が見えるんだ?」
そういえばさっき、甚の持ってる切符違うやつだった!
「これ路線違うか? ……あ、俺乗る電車間違えたー! なんだよ、言えよ、甚―!!」
八つ当たりで甚の頭をはたく。
無反応だ。
今日の甚は、無反応にも程がある。
「おい。なんだよ、怒ったのか? 叩いて悪かったよ! 無視すんなよー!!」
「……」
「おい」
「……」
「おい!」
「……」
「お前、俺の声聞こえてないのか?」
「……」
「俺のこと見えてないのか?」
「……」
「今まで散々話してきたじゃん」
「……」
「あ」
唐突に思い出した。
「俺、本当はここにいないわ……」
ああ、心配すんなよ。
成仏できてないんじゃないよ。
なんかお前にひっぱられてさー!
お前がご機嫌に伊豆行きの切符なんか買うから。会いに来てくれんのかと思ったら、嬉しくなっちゃって。へへへ。
後で、また会おう。
「この馬券やるよ。当たっても俺、金使えねぇし」
外を眺めたまま動かない甚の胸ポケットに、そっと馬券を忍ばせた。
銀河鉄道の夜のような夜のような昼 伊藤編
※大好きなラーメンズの、「銀河鉄道の夜のような夜」というコントをゴソッといただきました。
登場人物を真田と伊藤にしただけです。ラーメンズ好きな方、見逃してくれたらありがたいです。
