お題36.無い物ねだり
明るく元気で無邪気で可愛い。勉強ができて、運動ができて、全てのことを器用にこなす。素直でないところが玉に瑕。
小学生の頃からずっと、ずーっと、そんな評価を受けてきた。そして、可愛がられてきた。
だから、小鉄さんの素っ気なさは、全く意味がわからない。他の人たちは、俺が挨拶をするだけで、皆それなりの反応を示して、一言二言話をするのに。それが全然ない。言葉がなけりゃ、表情も変わらない。
小鉄さんに初めて会った時のこと、今でも忘れられない。
「はじめまして! 大口誠治郎です! よろしくお願いします!」
「……おう、」
これだけ。
「名乗るぐらいしたれや!」って、後ろから嶋本さんにはたかれてやっと、「佐々木小鉄です」って。本当に、名乗っただけ! これでお終い。こんなに反応悪いの初めてで、俺もう1か月もムキになってる。
1か月もろくな反応もらえてない。全然心開かないの! 小鉄さんの心は北の永久凍土で閉ざされちゃってるみたい。でもね、まあ、大丈夫! 俺、鹿児島出身だから。鹿児島、暑いから。よゆーよゆー。
どら、雑用さっさと片付けて、小鉄さんと話をしようかね。
輪ゴムとー、ボールペンとー、ホワイトボード用のペンとー、……あれ? どこかな?
最後の一つが見当たらない。段ボールを片っ端から確認して、未開封のを開けてまで探したけど、見当たらない。まあ、いっか。小鉄さんに聞けば。
「小鉄さーん。ラーフルが見当たらないんですー」
「……」
小鉄さんは、こっちを変な顔で見て何も言ってくれない。ちょっと? 前より温度下がってない? 勘弁してよね、こんなに頑張ってるのに。
「ラーフルが! どんなに探しても見つからなかったんですー。どこら辺に置いてるんですか?」
「……」
小鉄さんは余計変な目でこっちを見る。何? どういうこと? そんなわかりやすいとこになんて置いてなかったよ! 俺、段ボールは全部見たし!! ……あ。そういうことか。そういうことね。
「……小鉄さん。小鉄さんもまだ2年目ですもんね。わからないことがあったって、俺、何とも思いませんよ?」
だけど小鉄さんは、こっちを変な目で見たまま。
「らーふる?」
「ラーフル」
「……」
「あ、北海道じゃラーフルって言わないのかな」
考え込んだところで、思わぬところから声が上がった。
「鹿児島でしか言わないんじゃないか?」
南部隊長の言葉に、皆が頷く。
「ええー、嘘! じゃあ、皆はラーフルのことなんて言うんですか?」
「その前にラーフルって何だよ」
皆本当にラーフルが伝わらないみたいで、俺は、ホワイトボードへ駆け寄った。
「これ! これですよ、ラーフル!」
ラーフルを手に取り掲げて見せると
「ああ、黒板消しか」
って。
あー、それ。聞いたことある。テレビや漫画じゃ確かに黒板消しって言ってる気がする。
「ああ、黒板消し。そうとも言いますね」
強がってそう言ったら。ふっ、と。小鉄さんが、笑った。俺は、見逃さなかった。
なんだ、笑うんじゃん。もっと笑えばいいのに。
「小鉄さん、ラーフル! どこにあるんですか!」
ラーフルの謎が解けたところでもう一度聞いたら、小鉄さん、ちょびっとだけ開かれた心の扉がまだ閉まってなかったみたいで。
「段ボールじゃねぇべ」
って。何、べって! 可愛いとこあるんじゃん!
「段ボールじゃなかったらどこですか!」
「青いカゴ。……来い」
来い、の時には扉は閉ざされちゃったけど。1か月、頑張ってよかった。ほらね。どんなことでも、案外よゆーなんですよ。
青いカゴは倉庫の隅の一番上にあって、小鉄さんが取ってくれた。ラーフルの箱は埃かぶっていたけれど、出したらちゃんと新品だった。
最後の一つもゲットしたし。
「どら」
カゴを元の場所へ。
……届かない! 俺、平均身長あるのに! どんだけ高いんだよ!
仕方ない。
「小鉄さん、なおしてください」
頼むと、小鉄さんはまた変な顔をして。
「……ああ、仕舞う、」
俺はまた方言が出たらしい。
「何? なおすって、全国区じゃないの!」
この雄叫びは無視されたけど。
「脚立、あっちにあっから」
って、小鉄さん、含み笑いで。いつの間にか、また心の扉がちょびっとだけ開いてたみたい。
もうずっと開けときなよ! 絶対そっちの方が良いよ!!
だけど、倉庫を後にするときには、また完全に閉ざされてた。
南国の熱が効かないなんて、北の永久凍土、なかなか強敵。
