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お題33.趣味

 

 最近の趣味は、小鉄さんの心の扉を開く画策をすること。
 北の永久凍土に閉ざされた心の扉が開かれた時の小鉄さんったら、面白くてねぇ。いつもは無反応なのが、ちょっとだけ反応して、口をきいてくれる。
 ただ、南国の熱で溶かされてるわけでもないみたいで、小鉄さんの心を開くのはなかなか苦労してる。
 唯一大きく進歩したのが、行き帰りを同じ車でするようになったこと。小鉄さんが車で来てるのを知って、「乗せて乗せて! どうせ官舎まで一緒じゃん!!」ってしつこくまとわりついていたら、「お前が運転しろよ」って、折れてくれた。心は永久凍土だけど、ちゃんと優しいところもある!
 で、優しいところがあることが判明したから、こっちも暑苦しいだけじゃダメかなって反省して。ちょっと勉強した。北海道弁について。北海道って、捨てることを「投げる」って言うんだよ! そこで俺が立てた計画はこう!
 小鉄さんに何かを「投げて」って捨てるように頼まれたら、俺は方言を知らない振りして無邪気に小鉄さんに向かって投げつける。そしたら小鉄さんは「その投げるじゃねぇべ」って言いつつ、こっちに投げ返してくる。で、なんだか楽しくなってそのままキャッチボール。
 行ける! 行けるわ〜、これ。
 ただ、そもそもが無口で人と絡まない小鉄さんだからね。全然、その機会が来ないの。
 まいったね。

 今日の晩御飯は、お手製チキン南蛮。こっちに来てから目にするチキン南蛮が、なんかもう見るからに違くて。偽物が横行してることを話したら、小鉄さんたら珍しく興味を持って。
 見事、今、うちにいる!
 昨日はりきって準備して、タルタルソースも自家製! これは美味い自信しかない。
「いただきます」
 俺のおはようには「おう」としか返さない小鉄さんだけど、「いただきます」と「ごちそうさま」はきちんと言う。しかもちゃんと手を合わせて! 小鉄さんって、感謝の気持ちを忘れない人なんだなぁ。
 小鉄さんはまっさきにチキン南蛮を口にして、
「お」
 と呟いた。
「どうですか?」
「美味い」
 言って、さらにもう一口。
 美味いのは当然だよ。本場仕込みだもん。そうじゃなくて俺は、もっと具体的に感想を聞きたいわけで!
 でも、まあ。小鉄さんの箸は止まらないから、それだけ気に入ってもらえたってことだから、いっか。
 仕方がないから、一方的に作り方とか隠し味とかを話す。小鉄さんは口いっぱいにチキン南蛮が入ってるから「んん」と相槌を打つだけだけど、それでも、楽しい。
 結局小鉄さんはチキン南蛮もご飯もキャベツも全部おかわりして。
「ごちそうさま。……あー、食った」
 って、態度がでかい。でも口の横にタルタルソースが付いてて貫禄が無い。
「小鉄さん、タルタルついてますよ」
 言って、箱ごとティッシュを渡す。鼻のあたりから豪快に拭った小鉄さんは。
「ゴミ箱……そっちか。投げて」
 って、丸めたティッシュを寄越してきた。
 これは……! 計画を実行するときが来ましたよ!!
 受け取ったティッシュを、小鉄さんめがけて投げつける。
「てい!」
 だけど小鉄さんは変な顔になって。そう、訝しむような顔になって、少し考えてから、言った。
「文脈からわかるべ」
「う、」
「それにお前、基地で方言調べてたろ」
 そして、次はティッシュを寄越してはくれず、ダイレクトにゴミ箱に投げ入れた。
 って、えええええ?
「なんで知ってんですか?」
「なんでって、……」
 小鉄さんはニヤリと笑って教えてくれなかった。
 なんでばれてんの?
 そして小鉄さんはいつの間に心の扉を開いたの!? ……あ、チキン南蛮で大分開け放たれてたか。
 てか、何そんな恰好良い顔してんの? 何なの? いつもはボーっとした顔してるくせに! ずるい!!
 ……ああ、
 小鉄さん、ずるいなぁ。
 普段喋らないって、たまに喋るだけでレア感半端ないもん。たまに喋ってくれるだけで、すっごい嬉しいもん。しかも普段笑いもしないから、そんな人が、笑ったりしたら。
 やばい。
 やばいって。惚れちゃうって。
「……好きだなぁ」
「俺も。お前のチキン南蛮なら」
 あんたのことがだよ! チキン南蛮も嬉しいけど!
「今度なんか奢る。考えとけよ」
 言って、小鉄さんは立ち上がった。慌てて追いかける。
「え、え、もう帰っちゃうんですか?」
「明日も早いからな」
「でもまだ8時半ですよ!」
「お前に付き合ってたら疲れる」
「ひどい! こんなに好きなのに!」
「はいはい。うるさい」
「ひどい!」
「うるさい。近所迷惑だろうが」
「うう〜」
「おやすみ」
 そして小鉄さんは、俺の肩をポンポンと叩いて出ていった。
 やばい嬉しい。そんで、寂しい。

 こんなつもりじゃなかったのに。

 小鉄さん。
 小鉄さん。

 小鉄さんのこと、ホントに好きになっちゃいました。


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