つづきもの3話目です。

お題49.距離

 

 小鉄さんは、卑怯だ。
 好きに、なっちゃうなんて。

 出勤の車の中。今日は、これまでみたいに、話ができない。
 でも、小鉄さんが俺の様子伺ってるのもわかるから、何か話さないと。きっと、心配かけてる。
「決めたか」
 突然、小鉄さんがそれだけ言った。
「え……、何すか?」
「昨日、奢るっつったろ」
 ああ、言ってた。でも昨日はすっかり動揺して、そんなの考えてなかった。
 というより、考えるまでもない。
「何でもいいです」
「それ一番困る」
「小鉄さんとご飯食べれるんだったら、何でもいいんです!」
「はあ?」
「小鉄さんと一緒にいられるんだったら、何もなくていいです!」
 運転中で良かった。運転してなかったら、きっと飛びついてる。
「はああ?」
 飛びついてなくても、小鉄さんの反応は悪いけれど。
「だって好きなんですもん〜!」
「はあ? お前いつの間にそんなに懐いた」
「昨日です!」
「行かなきゃ良かった。うっとおしい」
 言って、小鉄さんは外を向いた。

 小鉄さん。
 好きなんです。
 大好きなんです。
 少しでも長く、一緒にいたいんです。もっと声が聞きたいし、もっといろんな顔が見たいんです。
 それで、俺のことも、好きになって欲しいんです。

 そのためには、どうしたらいいんだろう。
 皆が認める俺の魅力に、小鉄さんたら微動だにしない。
 北の永久凍土は、南国の暑いだけの熱じゃ解かせない。

 会話の無いまま基地に到着した。閃いて、俺はトランクへ急いだ。
「小鉄さん! はいどうぞ!」
 荷物を手渡す。これまでは、各々荷物を取っていたけれど。少しでも小鉄さんのためになるなら、何でもしたい。
「おう、」
 小鉄さんは少し驚いたみたいだったけど、気にしない。
 そこへ、嶋本さんが現れた。
「おはようさんー。二人車で来てるってほんまやったんやなぁ」
「嶋本さん! おはようございます!」
「おはようございます」
「勤務時間外まで先輩と一緒て、気ぃ使わへんか?」
「ええ〜。それ、本人目の前にして聞きますか? まあ、使わないっていうか、大好きだから一緒にいるんですけど!」
 どさくさに紛れて小鉄さんにくっつくと、めちゃくちゃ嫌がられて、嶋本さんには変な顔をされた。
「いつの間にそんなに懐かれた?」
 嶋本さんが小鉄さんに聞く。小鉄さんはやっぱりすごく嫌そうに
「今っす」
 と答えた。
「何言ってんですか! 昨日だってご飯一緒に食べた仲じゃないですか〜」
 小鉄さんの腕をつかんでぶんぶん振ると、思いっきり振りほどかれた。いいもん! 振りほどかれたって、またくっつくだけだし!!
 だけど小鉄さんはやっぱりめちゃくちゃ嫌そうで。
「嶋本さん……」
 って、必死に嶋本さんに助けを求める。すると、嶋本さんは真面目な顔になって。
「ええんちゃう?」
 と言った。よくわかんないけど、ナイス嶋本さん!
「そんな楽しそうな佐々木見たことないし。ええコンビやん」
 嶋本さん、見る目ある! そうですよね! いいコンビですよね!
「勘弁してくださいよ……」
 小鉄さんはショックのあまり俺を振り払わんとする力が抜けたみたいだから、ここぞとばかりに抱き付いた。
「小鉄さん、照れないのー」
「うっさい。離れろ」
「いやです! 好きです!」
「鬱陶しい!」
 小鉄さんは再び俺を引きはがしにかかり、嶋本さんは「ちゃっちゃと着替えや〜」と言うと基地に入って行った。

 小鉄さん、好きなんです。
 どうしたらその扉、開いてくれますか。
 どうしたら、くっつくことを許してくれますか。


つづく

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