つづきもの4話目です。

お題47.胡散臭い

 

 仕事の行き返りが同じ車だから、小鉄さんとは休み以外は四六時中一緒にいるようなもん。今更ながら、乗せてけって騒いだ昔の自分のナイスプレーに感嘆する。
 外では簡単にはくっつけないし、言いたいこともなかなか言えない。でも、車の中は、運転してるからくっつけないけど、言いたいことは思いっきり言える。
「俺、小鉄さんになら抱かれてもいい」
 いや、むしろ抱かれたい。率先して抱かれに行く。
「はあ? 気持ち悪いこと言うな」
 いつまで経っても小鉄さんの心はしっかりがっちり閉ざされたまんまだ。
 小鉄さんは、どんな人に心開くんだろう。どんな人を、どんな風に好きになるんだろう。
 好きな人には、どんな風に接するんだろう。どんな表情で、声で、言葉で、仕草で。
 どんな風に、気持ちを伝えるんだろう。
 どんな風に、愛を囁くんだろう。
「小鉄さんが愛を囁く方が気持ち悪いです」
「っは!」
 笑われた。
「囁かねぇよ」
 否定までされた。否定されたくない所を。
「論点がずれてますよ」
「そもそもお前が言い出したことの意味がわからねぇよ」
 よく、喋ってくれるようにはなったんだけどな。小鉄さんから話しかけてくることは、滅多にない。
 事あるごとに好きだと伝えてみてるけど、まるで相手にされてない。本気だって、伝わってないんだろうなぁ。うん。絶対。100パー伝わってない。
 結局ご飯もチキン南蛮の時の一度きり。奢るって言ってくれたこと、覚えてんのかな。あれから随分経っちゃった。今更言い出せない。
「はぁ……」
「どうした?」
「へ?」
「ため息。初めて聞いた」
 え、何これ? もしかして心配してくれてる?
 てか、初めて聞いたって。何それ。俺の初めてに気付いてくれるの?
 やめてよ。そんな、嬉しい発言。
 やめてよ。そんな心配そうな顔。
 嬉しいから。心開いてくれてるんじゃないかって、勘違いしちゃうから。
「あー……、肉でも、食うか?」
「え、にく?」
「奢るつったべ」
「うん。覚えてる」
 小鉄さん、覚えてた。小鉄さん、考えてくれてた。
 小鉄さん、俺も今、そのこと考えてたんですよ。
 同じこと、考えてた。やばい、嬉しい。偶然だろうが、すごく嬉しい。
「さすが小鉄さん! 好きです!」
「うざい」
「俺、店じゃなくて、部屋飲みがいいです!」
「好きにしろ」
「まじで! じゃあ、小鉄さんちがいいです!!」
「……きっちり片付けてから帰れよ」
「やった! じゃあ、スーパー寄って帰りましょう!!」

 焼肉を食べてる間、小鉄さんは俺の話を聞いてるのか聞いてないのか、「おお」だか「ああ」だか微妙な相槌ばかりだった。ただ、「好きです」って言った時だけ「うざい」だの「うっさい」だの、相変わらずの言葉が返ってきた。
 小鉄さんが残った肉を片付け始めたから、俺は洗い物をすることにした。とはいえ、肉はトレーから直接だったしすぐに終わってしまった。
 これは、まずい。
 あとはもう、追い出されるだけだ。
「ねえ、小鉄さん」
 ちょっとだけ真面目な声を出してみる。
「……なんだ」
 車の中でのため息が効いてるのかもしれない。小鉄さんの返事が、心が、こっちを向いてる。
 だけど、
「小鉄さん、好きです」
 言った途端にそっぽ向かれた。
「小鉄さんのことが好きです!」
 そして、げんなりとして言われた。「お前の好きは胡散臭い」
「ずっと俺にまとわりついて、何企んでる?」
「企んでなんかないです」
「企んでなかったら何なんだ」
 何なんだって、なに。好きって言ってるのにわからないの!?
「じゃあ、企んでますよ!」
 小鉄さんに触りたい。キスしたい。エッチだってしたい。してほしい。理由なんかなくたって側にいたい。
 俺は小鉄さんの恋人になりたい。
 そんなこと企んでる。
 カッとなってしまった俺は、小鉄さんを押し倒して、乗りあがって、キスをした。

 感触とか、わからなかった。
 ただ、後悔で頭が真っ白になった。

 ああ、終わった。
 絶対ひかれた。完璧嫌われた――


つづく

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