泣かないで 泣かないで 大切な瞳よ
悲しさに躓いても真実を見ていてね
そのままのあなたでいて―

 

「何やねんそれ! なんでこんな時にそんな歌なん?」
「いや……。ぴったりだと思ったんだが……」
「どこが?! 全然おもんない!」



ロボと心と愛のカタチ 機救編前編 1

 

 五管区機動救難班に出動要請があったのは、昼食を終え一息つこうとしたときだった。
「規模は?」
 嶋本は受話器を片手に、ホワイトボードの近くにいる隊員に板書するよう身振りで指示した。
 しかし次の瞬間こう言った。
「我々だけでは大分厳しいですね」
 その言葉に、皆が嶋本を見た。
 どれ程の規模なのだろうか。
 しかし危惧する皆をよそに、嶋本は「ああ、そうですね、お願いします」と淡々と答えた。そしてやはり、板書するよう身振りで伝えた。
 ホワイトボードに書かれる情報に、隊員皆の表情が厳しくなっていく中で、嶋本だけがやはり、落ち着き払っていた。
 そして、受話器を置くなり嶋本は言った。
「特救隊が来るまでの辛抱や」

 機動救難班に遅れる事三十分。特殊救難隊が現場に到着した。
「関空機動救難班班長、嶋本です」
「特殊救難第三隊長、真田です。只今より、救助指揮をお預かりいたします」
 そして、機動救難班は船外に脱出している者の、特殊救難隊は船内に取り残されている者の救助に当たることになった。
 救助にあたりながら、嶋本は特救隊を横目に見ていた。
 自分がもといた場所だ。気にならないはずがない。しかも、来たのが真田隊である。気にするなと言う方が無理だ。
 嶋本が関空に移動してから、真田の話は海難での活躍しか届いていない。高嶺や他の者から相談を受けることも、異常があった報告もない。フリーズした後に何かしらのデータがなくなっていたという報告もない。一見、ロボットに何の変化もないようだが、嶋本はそうは考えていなかった。ロボットの創造力について、結局何もわからないままだからだ。
 船外の者の救助を終え、嶋本は船内捜索を申し出たが、断られた。要救助者は残り一名。そしてじきに船内をあらかた回り終えるらしい。つまり、要救助者はじきに見つかるということだ。
 巡視船に移り、嶋本は聞いた。
「それで、隊長はやっぱり最前線なん?」
「そりゃもう。でないと宝の持ち腐れでしょ?」
 高嶺は楽しそうに答えた。
「宝の持ち腐れ、て。何か危険性でもあるん?」
「おや、ばれましたか。ガスがね、発生してるんです。発生箇所はつきとめてるし、応急処置もしてるので、もし爆発しても大した事にはならないのですが。……隊長が、生身の人間が行く所じゃないって」
 その言葉に、高嶺の隣にいた佐々木がうなずいた。
「それで高嶺が指揮を?」
「ええ」
 答えて、高嶺は嶋本をまじまじと見た。
「嬉しそうだね、シマ」
「っ、……そうか?」
 嶋本はしらばっくれた。
 久々に真田に会えたから嬉しい。それだけではないからだ。
 真田が、ロボットとして誇りを持って成長していることがわかって嬉しいのだ。しかし自分はもう真田隊副隊長ではないので、ロボットの事を分析したりする必要はない。だから、なんとなく、今もロボットのことを気にしていることを知られたくはなかった。
『要救助者発見。ただちに脱出する』
 無線が入った瞬間だった。
 船尾の方で爆発が起こった。
「隊長! 大丈夫ですか、隊長!」
 すぐさま高嶺が確認をとった。しかし返事は無かった。
「……骨伝道マイクも捕まりません」
 佐々木が言った。
 隊員達の間に緊張が走った。
 まさか……。
 誰も声には出さなかったが、ほとんどの者が最悪の事態を危惧した。
「爆発は大したことありません。十分待って二人が出てこなければ、救助に向かいます。その時は、佐々木君、嶋本さん、お願いします。」
「は?」
 間抜けな声を出したのは、もちろん嶋本だ。
「特救さんらで行くもんじゃないですか、ここは」
 聞けば、高嶺は当然のように答えた。
「私は指揮を執らなければなりませんからね、行けません。それに、今の爆発の消火もしなければなりません。となると、人員が限られてくる。さらに、要救助者の他に真田隊長も救出する必要があるかもしれません。ですから、経験があって、真田隊長のこともわかってる人を向かわせたい。だから、お願いします」
 高嶺は変わらぬ穏やかな顔で微笑んだ。
 
 そして、要救助者と真田が現れないまま、十分が経過した。
「とりあえず、爆発したとこ行こか」
 嶋本は佐々木に言った。佐々木はただ、「はい」と返事をした。

 

ロボと心と愛のカタチ 機救編前編 2>>

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