ロボと心と愛のカタチ 機救編前編 5
焼いて食べて、喋って飲んで、時々歌って。粉もんパーティーも佳境を迎えた頃、一人ベランダで飲んでいた嶋本の隣に高嶺が腰を下ろした。
「もう食べなくて良いんですか」
「もう良い言うより、そろそろホットプレートで創作料理始まる頃ちゃん。ええわ、恐ろしい。俺皆帰してから目玉焼き食うし」
「目玉焼き?」
「目玉焼き。ホットプレートで焼く目玉焼き、なんかめっちゃ美味い気がして好きやねん」
「半熟?」
「そらもう、」
はははと笑ったところで、背後が何やら騒がしくなった。創作料理(ただし、食べ物を適当に混ぜて適当に焼くだけ)が始まったのだろう。恐ろしい事に、ロボットがその輪の中心にいる。
「お前ら、食いもん粗末にすんなよ!」
嶋本は言外に、全部食って帰れよ、と釘を刺した。
「基地長は、どういうつもりなんだろうね」
高嶺が言った。
「どうって?」
「隊長とシマを会わせて」
「ああ、隊長から俺のデータ消去したのに意味ないやん、て?」
「そう」
「データに関しては、報告書受理されたら自動的に消去されるようになっとる」
「さすが、ぬかりはないわけだ」
「もちろん」
「ふぅん……」
「せやねん」
少しの間が空いて、だけどすぐに何かひらめいたのか、高嶺が「じゃあ、」と口を開いた。
「じゃあ、もし、海難とは関係のない場所で出会ったら?」
「お。高嶺も真田隊副隊長らしなっとるやん」
「三年目だからね。で? どうなの?」
「忘れるで、ちゃんと」
そう。ちゃんと。
「報告書なしに、どうやって?」
その質問に、嶋本は鼻で笑った。
「お前自分でわかっとるやん。海難で会ったときは、報告書の受理が俺を忘れるスイッチ」
「スイッチ……」
「せや。スイッチオフにするのはどんな時?」
「それがもう必要無い時」
「ほらお前、わかっとるやん」
嶋本はそれ以上説明しなかった。
少しの間を置いて、高嶺が呟いた。
「挨拶……」
「お」
「別れの挨拶?」
「ご名答!」
嶋本は楽しそうに言った。しかし高嶺には見ていられなかった。無理をしているように思えたのだ。
「寂しくないの?」
「へ? なんで?」
「だって、あんなに仲良かったじゃない」
「……せやなぁ」
嶋本は、遠く、夜空を眺めた。
「寂しくないって言ったら嘘になるけど、」
嶋本の表情は、晴れ晴れとしていく。
「今回隊長に会って、これで良かったんや、て、確信した!」
そこに無理をしている様子は一切無かった。
「ああ、そうか。基地長はこれを知りたいんやな」
「?」
「基地長に、これで良かったと嶋本が言っていましたー、て、言うといて」
それから、もう一つ。
「創造力も、あるかどうかはやっぱりわからへんけど。あるとしたら、良い方向に働いてくれてますー、て」
そう言う嶋本は、何かつっかえていたものが取れたようにさっぱりした様子で。高嶺もなんだか嬉しくなった。
「そっか」
「せやねん」
「じゃあ、特救隊戻って来ようよ」
「はあ?」
嶋本は素っ頓狂な声をあげた。
「お前なぁ。俺が羽田出た理由聞いとるやろ? それとこれとは話が別やねん」
「ええ〜、同じじゃない。ロボットがらみでしょ?」
「おーまーえーは! 屁理屈を言うな! 同じじゃないんじゃ!」
そして粉もんパーティーは、十一時前にお開きになった。嶋本は皆を最寄りの駅まで送ることにした。駅に着くと、真田が右手を差し出してきた。迷わずにその手を取り、しっかりと握手を交わす。
「世話になった」
「いえいえ、とんでもない」
「可能なら、一度一緒に働いてみたいものだな」
「そうですね」
「その時は、また嶋本のことを覚えていないだろうけど」
「全然構いませんよ」
「そうか。では、また」
「はい。また」
そして、どちらからともなく、握手は解かれた。
皆が改札を通るのを見届けると、嶋本は家路に着いた。
空には、ぽっかりと満月が浮かんでいる。
『次も副隊長をやってくれるか』と言われた日を思い出す。
今日も、一緒に働きたいと言われた。
嬉しかった。
でも、それよりも。
『生身の人間が行く所じゃない』と、率先して最前線に立っていたこと。
新人の質問に対して、『その方が良いからだろう』と真田自らが答え、笑顔になったこと。
そのことの方が嬉しかった。
自分の意志を汲んでくれている。
その上で真田は、自分がロボットである事を受け入れている。
それは、つまり。
誰か一人だけに心開く事は、もうないということ。
真田甚個人として欲を抱くことは、もうないということ。
大丈夫。
破棄にはならない。
あなたのすぐそばにまた新しい花が生まれて
木漏れ日の中で鮮やかに揺れてる
いつまでも見守ってあげたいけど
もう大丈夫
優しいその手を待ってる人がいるから
顔をあげて―
(L’Arc~en~Ciel ‘Pieces’ 引用)
(終わり)
