ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 1

 

 海上保安庁特殊救難隊。レスキューのスペシャルチームにロボットが投入されたのは数年前の話。人工知能を持つそのロボットは人型で、ロボットだと教えられなければ、皆そのロボットを人間と信じて疑わないだろう。そのロボットはそれ程によくできている。しかし同時に、ロボットであるがために理解しづらく扱いづらいのもまた事実だ。
 そんなロボットに良きバディができたのはつい一年前の話。
 それなのに、せっかくのデータが初期化されたのが、五ヶ月前の話。
 それでも、ロボットとそのバディは『良きバディ』として認識され続けていて、周囲にはすっかり、『ロボットと言えば嶋本進次、嶋本進次と言えば真田甚』と浸透している。だから、誰もが二人が別の隊になるなんて考えもしなかったし、事実、新三隊の副隊長には嶋本が任命された。隊長は勿論ロボットだ。
 ホワイトボードに張り出された新隊編成の紙を見て、嶋本は隣に立つ人物に声をかけた。
「また一年間、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
 初対面ではないから、ロボットも流石に握手は求めない。ただ、その顔にはやはり笑みが浮かべられている。
「新人の佐々木小鉄。道産子やし、ちっとは役に立ってくれそうですね」
「ドサンコ?」
「あー……北海道出身ってことです」
「ほお」
『ほお』はインプット完了時に出る言葉。嶋本は何十回目かの「ほお」を聞くと、高嶺のもとへと駆けていった。
「高嶺! また、よろしうな」
 言って、高嶺の胸の辺りを拳で叩く。高嶺は、柔和な笑顔で返事をした。
「よろしくお願いします」
「高嶺おったら心強いわ」
「おや、珍しいこともあるものですね」
「なんやて〜?」
 ふざけたような言い方だが、本心だった。ロボットの下で働くことは、信頼していないわけではないが、やはり、精神的安静が望めない。そんな中でいつでも穏やかな高嶺は、嶋本にとって欠かせない存在になっていた。

 訓練を始めた途端、佐々木の集中力が途切れた。ロボットまで訓練するとは思っていなかったのだろう。嶋本は真田と組んでストレッチをしていたために、すぐにそうだと感づいた。佐々木はちょくちょく二人を伺っていたのだ。ストレッチを終えて移動する間に、嶋本は佐々木に話しかけた。
「小鉄、集中力足りひんのとちゃうか」
「えっ、いや……」
「『いや』ちゃうねん。ずっとこっち見とったやろ?」
「いや、隊長も訓練するんだなと思って」
「ロボには必要ないてか?」
「いや……」
「バイクかて、長いこと走らさんかったら使われへんようなるやろ? そういうこっちゃ」
「はぁ」
「それにな、小鉄、隊長の視界360度って知っとるか?」
「そうなんすか?」
「せやねん。隊長、あれでちゃんと皆のこと見てんねんぞ」
「そうなんすか」
「……お前、隊長より会話弾まへんなぁ」
「ええ!?」
「隊長の学習能力凄いからな」
 そこまで言うと嶋本は、口の横に右手を添えた。察した佐々木は中腰になり耳を近付ける。
「隊長がロボやってことうっかり忘れたらあかんで」
「忘れることなんてあるんですか?」
 佐々木はあからさまにいぶかしんだ。そんなこと、有り得ない。全身からそんな空気を漂わせている。嶋本は、少し考えて、「ない、な」と言った。
「ないない! ないならええねん! とにかく、これからは集中して取り組むんやで!」
 佐々木は真田をロボットとしか見られないらしい。それならば余計なことを吹き込むこともないだろうと、嶋本は態度を改めた。

 

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