ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 36
「今、真田さんの中、欲だらけでしょ? 少なくとも、自我がある」
「ん? ああ、そうなるのかな」
「それね、あかんことなんです。真田さん、ロボットでしょ? ロボットに自我があるという事は、ニンゲンの脅威になりかねんってことなんです。やからほんまは、真田さん……」
「なんだ?」
「真田さん、ほんまは、破棄になっとってええはずなんです」
「破棄……」
「今回のんは、破棄にせんための苦肉の策。俺は真田さんを、破棄になんてさせたくない」
「だが、なぜ嶋本のことを忘れなければならないんだ。なぜ、嶋本と離れなければならないんだ」
必死な真田に、嶋本は笑みをこぼした。
「だって真田さん、俺とおったら自我芽生えるでしょう? 新人教育の時とか、俺がおらんかったとき、感情何も学習してへんやないですか。……俺は真田さんの傍におったらあかんのです。真田さんの中から綺麗さっぱり消えてしまわなあかんのです」
ロボットは情報を整理しているのか、何か思うところがあるのか、少々込み入った処理をしているらしい。
肩に置いた手がじんわりと温もってきたことに嶋本は気付いた。
「……だが、佐々木と話していてデータを初期化したことがある。何も嶋本に限った事ではない」
真田は言った。
しかし嶋本にはそのことも見当が付いていた。
「それは、佐々木との会話が引き金になっただけですよ。佐々木との会話以前に、真田さんの中に何か感情が芽生えつつあった。ただ、まだ決定的なものではなかった。それが、佐々木との会話の中で決定的であると判断され、初期化に至った。……それは、今の真田さんやったら、自分でわかっとるはずや」
真田は返事をしなかった。まだ何か考えているらしく、また少し、真田の体温が上がった。
嶋本は、肩から首、頬へと置いたままの手をずらした。
「ありがとう」
「ん?」
「そうやって、あがいてくれるの、めっちゃ嬉しい」
「……」
「ほんまは俺も離れたない。でも、俺は、真田さんがおらんくなるのが、一番嫌や。それに、破棄されてみ? 今みたいにあがく事もできひんのですよ。何もできんのですよ。そんなん、嫌でしょ?」
「……うん」
「俺が傍におったら、真田さんはいずれ破棄される。でも、俺を忘れて、俺と離れる事によって、それは免れる。」
真田の上がった体温は、それ以上上がりも下がりもしなかった。
「……。それは、辛い事ではないのか?」
「辛い? なぜ?」
「以前俺に感情を忘れろと言ってきた時は、酷く辛そうに見えた。今回俺が感情と嶋本のことを忘れる事は、嶋本にとって辛い事ではないのか?」
「……ああ。前は、辛かったですよ。真田さんが人間らしくなるの嬉しかったし、真田さんが人間らしくなれて喜んでるのもわかっとったから……。でも、今は辛くない。だって、それで真田さんを守る事ができんねんから」
「……」
「俺が今一番辛い事は、真田さんが破棄になること」
「俺が破棄にならなければ、嶋本は辛くないのか?」
「ええ」
「俺が破棄にならなければ、嶋本は笑顔でいられるか?」
「ええ。それで、真田さんの活躍が関空までいっぱい伝わってきたら、もっと嬉しい。笑顔でいられる」
「わかった」
「うん?」
「嶋本が笑顔でいることが、俺の一番の幸せだ。それならば、喜んで、ただのレスキューロボットに戻ろう」
「ええ」
すると、真田の体温は徐々に下がっていった。
それから二人は、何度も何度も好きだと言って、何度も何度もキスをした。
そろそろ空港へ行こうと玄関へ向かったとき、黒岩が真田を向かえにやって来た。
「思い出話はたっぷりしたか!」
「ええ」
真田が朗らかに返事をした。
「嶋本、お前は? 思い残すことはないか?」
黒岩の問いに、嶋本は言った。
「思い残す? 何言ってんすか! これからの真田さんの活躍が楽しみでしゃあないっちゅうのに!」
そしてそのまま真田に聞いた。
「ねぇ?」
「そうだな」
二人の楽しそうな様子に、黒岩は満足そうにガハハと笑った。
「そうかそうか! それなら良いんだ!」
2年後。
五管区の海難事故で二人が再会するのは、また別のお話。
(おわり)
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