真田家はいつもにぎやかだ 1

 

 真田家はいつも賑やかだ。父甚は物静かだし、母高嶺は穏やかなものだが、息子の兵悟が何かと騒ぎ立てる。
 兵悟がひとり元気に育ったのは、きっと近所に住むお友達のおかげだろう。盤と星野だ。兵悟は毎日のように一つ年上の盤と喧嘩をしては、泣きじゃくる。そしてそれをなだめるのが、四つ年上の星野だ。星野の手に掛かれば、生意気盛りの盤も言うことを聞く。
 今日は真田家に盤と星野が遊びに来ていて、兵悟も加えて三人で、父甚の取り合いになっている。事の発端は、盤の「ヒョーゴ君のお父さんには勿体無かばい」発言だ。
「パパはおれのパパだもん!」
 と兵悟が泣きじゃくり、
「でも本当、兵悟が羨ましいよ」
 と星野が言い、
「ヒョーゴ君うちに来たら良かったい。オイがここ残っけん」
 と盤が言い、
「嫌だ〜!!」
 と兵悟は泣きじゃくる。今回は星野も兵悟をなだめないから、無限ループだ。それなのに父甚は構わずに傍らで新聞を読みふけっているから、高嶺がおやつを手に割り込んで来るまで騒ぎはおさまらなかった。
「こら、仲良くしなさい」
 その声に一番に反応したのは盤だった。盤は高嶺がやって来るときはおやつが付いて来ることを心得ている。
「今日は何?」
「プリンですよ」
「プリン?」
 プリンに反応したのは真田だった。プリンやケーキが用意される日は、来客がある日だ。
 するとちょうど呼び鈴が鳴った。
 兵悟は急に泣きやみ、玄関へと駆ける。
「はーい!」
 そしてその後を、甚、盤、星野が追っていった。
 ガチャリとドアを開けると、そこには背が高く恰幅の良い男がいた。驚いた兵悟が泣き出す前に、男はしゃがんで手を兵悟の頭に置いた。
「おお〜、大きくなったなあ、兵悟」
 兵悟はそれには答えずに、振り返り甚に助けを求める。
「黒岩さん。今日何か約束していましたか?」
 甚は兵悟の横に並び聞いた。悪びれず言う真田を、黒岩は今更気にしない。
「ああ、してたんだよ。それよりもお前、いつの間にそんなに子沢山になったんだ?」
「近所の子だ」
「……見りゃわかるよ。今日はうちのの中学入学祝いだろう? なんでわざわざこっちから来なきゃならないんだ」
「その、うちの、が見当たらないが」
 すると黒岩の後ろから少しかすれ気味の元気な声が響き渡った。
「ずっとここおるわ! でかいんじゃ、親父!!」
 そして『うちの』が黒岩の横から出てきた。黒岩家の長男・進次だ。
「大きくなったな」
「つっても、まだ148しか無いけどNA!」
「親父はうっさいねん!」
「これから伸びるさ」
 甚が言えば、進次は嬉しそうに「やんな!」と返事をした。
「それにな、この声! 風邪とちゃうねんで! 声変わりも始まってん!!」
 聞いて! あー、あー、あー……。とはしゃぐ進次に、甚は思わず笑みがこぼれる。ふと目が合ったので微笑めば、ふいっと視線をそらされた。頬が赤らんだように見えたのは気のせいだろうか。
 進次は、甚のそでをぎゅっと握ってこちらを見つめる目の大きな子の前にしゃがみ込んだ。
「兵悟! お前も大きなったなぁ!」
 言って頭を撫でるが、兵悟はきょとんとしている。
「あー、わかれへんか。まあ、前会ったのお前がまだ赤ん坊の頃やったからなぁ。俺は進次や」
「しんじ、くん?」
「おう!」
 進次の満面の笑みに、兵悟もつられて笑顔になる。
「しんじくん!」
「おう! 兵悟、お前はいくつになったんや〜?」
「よっつ!」
「四つかぁ。そらでかなるわなぁ」
「うん!」
 一気に仲良くなった二人を、甚は複雑そうな表情で見つめる。
「おう、真田。なんだその微妙な顔は」
「いや……」
「こんな所もなんだ。さっさとあげてくれ」
「ああ、そうだな」

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