なリス 11

 

 増えとる……!!

 その朝嶋本は、ケージの前に行ったと思いきや、その身をくるりと翻した。
 そして向かった先は基地長室。ノックをして「どうぞ」とのん気な声が聞こえるなり、嶋本は「基地長!」と叫びながらドアを開けた。そして「なんなんですかあれは!」と後方を指差しつつ怒鳴りながら基地長のデスクへツカツカと歩み寄った。
 しかし基地長はやはりのん気に、「何のこと?」と言った。
 しらを切る気か……!
 嶋本は勢いを弱めず言った。
「リス! 増えてるやないすか!!」
 しかし基地長の反応は以外なものだった。
「え? もう二匹目いるの??」
「……基地長じゃないんですか?」
「うん。真田君がね、あの子一匹じゃつまらないだろうから、もう一匹飼っても良いですかって」
 ロボがこんな時にいらん気ぃまわしやがって! という言葉は飲み込んで、嶋本はあくまでも基地長の対処を聞いた。
「それで、許可したんですか!?」
「うん」
「うんじゃないですよ!」
「そっか。そっかそっか。もういるのか。見に行かなくちゃね」
 基地長はマイペースにそう言うと、嶋本の様子は一切気にせず、もそりと立ち上がった。

 嶋本は基地長を追って再びケージの前へとやってきた。肝心の基地長がこんな様子なので、嶋本はもうリスに関しては諦めた。リスは何も悪くない。やってきてしまったものはしょうがない。
 二匹目のリスはシマリスではないようで、毛色は茶色一色だ。
「シマリスじゃないんだね。なんてリス?」
「知りませんよ」
「チマより大きいね」
「そうですね」
「チマより大分大人しいね」
「そうですね」
「オスかな、メスかな?」
「さあ……」
「メスだったら、子供生んじゃうかもね」
「俺はチマがオスやってことを今知りました」
「もしそうなったらどんどん賑やかになっていくねぇ」
「それは迷惑な話ですね」
 嶋本は憮然と答えた。
 やってきてしまったものはしょうがない。だから、やってきてしまったものがオスとメスで、子供ができてしまったら、それもしょうがない。嶋本はそう片付けるつもりでいる。しかし、問題はそこではないのだ。
「おや? 嶋本君、意外に薄情だね」との基地長の言葉に、嶋本はやはり憮然と答えた。
「こいつらの餌代とかもろもろ、基地長が出すんなら喜んで何匹でも育てますよ。でも、なんで隊員達の自腹なんですか」
 やってきてしまったものはしょうがない。しょうがないから、世話もする。しかしその世話が、なぜ実費なのか。自ら望んだものではないのに、なぜ金を出してまで世話をしなければならないのか。
「癒されてるんだ。四十人で育ててるんだし、安いもんだろう?」
「……今んとこコイツに癒してもらえたことありませんけどね。むしろうるさくて仕事に集中できひん」
「でも、なんで二匹別々なんだろうね?」
 嶋本の本音を、基地長は華麗にスルーした。しかし真田のおかげで話がかみ合わないことにすっかり慣れてしまっている嶋本は、話を変えられてしまったことに全く気付かなかった。
「狭いからじゃないですか」
 二匹別々というのは、ケージの話だ。チマのケージの横に同じくらいの大きさのケージが置いてあり、二匹目のリスはそちらにいる。
「狭い?」
「チマ、しょっちゅう反復横跳びするし」
「でも、この子大人しいから平気じゃない?」
「そんなもんすかねぇ。……あ、」
「ん?」
「たぶん、チマを逃がさんためやと思います。こいつ事ある毎に脱走謀ってますから」
「……そうだね。それは大事なことだ」
 身に覚えのある基地長は、神妙そうに頷いた。


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