なリス 12

 

 基地長と嶋本の二人が、ケージの前で神妙に佇んでいると、大口が出勤してきた。
「おはよーございまーす!」
 そして、まっすぐに二人のもとへとやってきた。
「こいつっすか〜。ジンジンは! ヘ〜、」
 本当にチマと全然違う!!
 大口は続けてそう言おうとしたが、嶋本の叫びにかき消された。
「じんじん!?」
「へ? ……はい。ジンジン」
 答えた大口は、右手で二匹目のリスを指差している。
「へぇ。この子ジンジンっていうの」とのん気な基地長に対し、嶋本はわなわなと今にも怒鳴り散らしそうな顔をした。それでもなんとか静かに聞く。
「こいつ、ジンジンっていうん?」
「はい」
 しかし嶋本は信じたくなくて、重ねて聞いた。
「ジンジンっていう種類のリス? ジンジンっていう呼び名?」
「呼び名……」
 嶋本は、額にパチンと手をやり天を仰いだ。
 なんでジンジンやねん。
「ないわぁ」
 とても呼ばれへん。……ん?
「なんでお前、知ってるん?」
「小鉄さんが……」
「小鉄しめる!」
 嶋本は、やり場のないこのなんとも言えない気持ちを佐々木にぶつけることにした。
 自分は二匹目のリスの存在を知らなかったのに、部下にはその情報が伝わっているなんて。それどころか、誰もそのことを自分に教えてくれなかったなんて。情けないような嫉妬のような怒りのような、決して良くはない気持ちが、ふつふつと湧き上がって留まるところを知らないみたいだ。その上呼び名が『ジンジン』だなんて。
 リスの呼び名が、『チマ』と『ジンジン』だなんて。
 誰かが企んだとしか思えない。
 でもそう言えば、チマの名づけ親は武山だと、嶋本は聞いている。嶋本は「武山もしめる!」と心に決めて、まだ隊服に着替えてもいない自隊副隊長に命を下した。
「お前ジンジンのケージ掃除せぇ」
「え〜。着替えてからで良いですよね?」
 そこへいつの間にか来ていた大羽がやってきた。
「大口さん、ワシがやりますけえ、着替えてきてください」
「お! 気が利くねぇ大羽! じゃあよろしく!」
 大口はそう言うと軽やかにその場を去っていった。一緒に基地長も出て行った。
 大羽は楽しそうにケージへ手を伸ばす。
「なんでジンジンなんでしょうねぇ。こいつ」
 大羽が言った。
「ほんまそれ」
 嶋本は心から頷いた。しかし大羽は意味不明なことを言った。
「別にンーいらんのに」
「……何言うとん」
「ジジ」
「は?」
「……」
 大羽が答えようとしなかったので、嶋本は話題を変えた。
「てかお前もコイツんこと知っとったん?」
「ワシはタカミツから聞きました」
 佐々木も佐藤タカミツも、なぜ自分には報告してこないのか。というよりは、なぜ自分にだけこの情報が回って来なかったのか。嶋本はいい加減イライラしてきた。
「タカミツしめる! ったく、どいつもこいつも、何で俺に言わへんねん!!」
「知らなかったんですか?」
「おーおー、知らんかったわ! で? お前も俺を馬鹿にする気か!」
「違いますよ! てっきり黒岩さんから聞いてるもんじゃと……」
「黒岩さん? 買ってきたのは真田さんやろ?」
「名前付けたのは黒岩さんじゃ言うてましたよ?」
「うーわ、あんゴリラ!」
 そう言った嶋本が天を仰いだところで、がめつい声が会話に入ってきた。
「ゴリラたあ、誰のことだ?」
 黒岩だ。しかし嶋本は慣れたもので、即座に挨拶をしてとぼけた。
「さあ〜? それよりも黒岩さん、まだおったんですか」
「ああ。こいつの名前決めるのに、時間くっちまってな。今までデスクワークしてた」
「仕事先にしましょうよ」
「……お前も着替えてきたらどうだ」
 言われて嶋本は、自分がまだ私服であることに気付き、慌てて二階へと駆けていった。
 着替えるついでに真田へのメールも忘れなかった。

 To 真田隊長
 Sub ジンジン
 Text
 隊長、ほんまあり得へん。


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