なリス 30

 

 ジンジンの言葉が俺を責める。
『お前は、痛い思いなんかしてないじゃないか』
 でも。だって。チョコ、受け取りにくい寄こし方してきてんもん。楽しそうな顔で、意地悪してきてんもん。そりゃあ、噛み付いた後、楽しそうな顔消えてもうたけど。そんなん、意地悪するからやんか。
『シマモトはチョコをくれたのに、痛い思いをした』
 俺だって、チョコもらう前、いっぱい撫でさせたったもん。タダでもろたわけちゃうもん。
『でもお前は、痛い思いなんかしてないじゃないか』
 だって、シマモト、チョコ、縦にくれへんかってんもん……。

 ジンジンの言葉は、ぐるぐると何度でも俺を責める。
 ぐるぐるする度にもやもやして、もやもやはぐるぐるする度に大きくなる。

 でも、ほんなら、どうしたら良いん? どうしたら謝れる?
ニンゲンの言葉なんて、喋られへんのに……。

 うだうだしてたら、掃除の時間になった。シマモトはこれまでと変わらない。
 痛くない? 怒ってへん?
 小屋から顔だけ出して眺めとったら、シマモトがこちらを向いた。手を止めて、何やら話しかけてくる。
 何て言うてんの?
「?????、チマ」
 ねぇ、シマモト。俺、呼ばれたことしかわからへん。
と、シマモトがケージをトントンとしてきた。何、その指。何付けてんの? 俺が噛んだから?
 小屋から出て駆けつける。ケージの際々まで寄ると、嶋本はやっぱり頭を撫でて来た。しばらく大人しくなでられとったけど、やっぱり俺は指が気になる。顔を上げて手を伸ばすと、シマモトはやっぱり何やら言いながら指を差し出してきた。
「??? チマー」
 呼ばれて、視線をシマモトの指から顔へと移す。
 シマモトは、なんだか嬉しそうな顔をしとる。
 ねぇ、怒ってへんの? 指痛ないん?
 ごめんやで。ゆるしてくれる……?
 シマモトは一度指を離すと、次は二本の指でそっと俺の手を取った。軽く上下に振られて、今度こそシマモトの手は離れていった。
 シマモトは何やら言いながら、再びケージをトントンと叩く。眺めていると、小屋の辺りをトントンとし続けている。試しに小屋に入ってみると、シマモトはやっぱり嬉しそうに何かを言った。
 なんやようわからんけど、シマモト嬉しそうやから、ええか。
 途端に、もやもやが小っさくなって、ぐるぐるがなくなった。
 シマモトは掃除を終えると、いつもの席に戻った。

 小屋から出て、入れたての牛乳をいただく。美味い。
 牛乳変えたんかな? いつものより美味い気がする。
 カシャン
 ジンジンも小屋から出てきたらしい。しかし俺はこの美味い牛乳に首ったけ。
「チマ」
「んー?」
 俺は牛乳から顔を上げずに答える。
「シマモトは、おっきいな」
「そりゃ、ニンゲンやからな」
「そうじゃなくて」
「どゆこと?」
 わけわからん。

 とりあえず、気にいらんことがあっでも、もやもやするなら噛むんはやめとこ。

 

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