なリス 6

 

「おはようございます!」
 翌日、基地に響き渡ったのは、本日の当直隊隊長嶋本進次の声。今日はこれに返す声に、ガシャンガシャンと騒がしい音が混ざっている。
「アイツっすね、基地長が置いてったリスってのは」
 嶋本は誰に言うでもなく声を出し、リスの方へと歩みを進めた。そこへ真田が並ぶ。ケージに手を伸ばした嶋本に注意する。
「開けるなよ」
「あーあー、聞いてます。賢いんですってね、コイツ」
 嶋本がケージに触れると、リスは反復横跳びを止め、嶋本の手から一番遠いケージの隅へと移動した。警戒しているのだろう。嶋本はすぐにケージから手を放した。
「ああ。名前は聞いたか?」
「名前??」
「チマだ」
「……へぇ」
「呼んでみろ。耳が反応するから」
「えっと……なんとなく呼びたないんすけど」
「なぜだ? ほら」
「んー……」
 嶋本は眉根を寄せてリスを眺める。リスは警戒を露に、嶋本から目をそらさない。
「さあ」
 真田が促す。嶋本は渋々声を出した。
「チマ」
 嶋本が呼べば、リスは耳が反応するどころか、さらに一歩後退しようとした。しかし既に隅にいるので、それ以上は下がれない。その様子を目の当たりにした嶋本は、真田に顔を向け言った。
「てか、めっちゃびびってますやん」
 リスはその隙に小屋へと入っていった。小屋には誰が入れたのか青いハンカチが入っていて、小屋に入られてしまっては、姿が見えない。
「ふむ。珍しい反応だな」
「……あーあ。全然かわいない」
「そうか? 嶋本に似ているじゃないか」
「は?」
「賢いところも、機敏なところも、動きがしなやかなところも、勝気な目も」
「……それは褒めてんすかね、馬鹿にしてんすかね」
「今はリスの話だぞ」
「あー……、ええです。着替えてきます」

 朝の体操から戻ると、リスはガッシャンガッシャンと反復横跳びをしていて、小屋は荒れに荒れていた。嶋本は引継ぎを済ませると、小屋の掃除に取り掛かった。引継ぎには、小屋の掃除の仕方も含まれていた。
 ケージの入り口を開けるときは、空いた手を入り口のすぐ手前に構えておく。それまで大人しくしていたリスが、突然飛び出してくるから。
「ぅおっと!」
 ほんまにいきなり突っ込んできた……。
 嶋本は左手で掴んだリスを眼前に持って来る。リスは全身で暴れているが、特救隊隊長にはなんてことはない。余裕で顔を覗き込む。
「そうはいかへんで〜。お前んことは、隊長からちゃあんと聞いてんねん。人間様なめんな」
 そしてポイとケージに戻した。そのまま左手をケージに突っ込み、リスを小屋へと追いやる。掃除中は一度小屋へと追いやってしまへば、小屋から頭を出してはいるものの、大人しくしているという。
 ……。ほんまに大人しい。
 あとは、軽く掃除をして、餌を替え、水を替え、牛乳を替える。
 ……牛乳? ハムスターに牛乳やってるトコ見たことないよな。……まぁいっか。こいつリスやし。
「おっしゃ! もう出てきてええで。」
 言って嶋本はケージをバンバン叩く。リスはピクンと反応すると、牛乳の方へと駆けて行った。ペロリペロリと舐めているだけのようなのに、牛乳は凄い勢いで減っていく。
「ぅーわ、すっご。お前次いつ掃除するかも誰が掃除するかもわかってへんねんからな。大概にしとけよ」
 嶋本はもう一度ケージをバシンと叩くと、デスクへ戻った。




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