なリス 5
朝の体操が終わり引継ぎも終わると、神林は真田のもとへと駆け寄った。
「さすがですね、真田さん!!」
「何がだ?」
「リスをあんなに簡単に手名づけるなんて!」
「いや……一番警戒されていると思うぞ」
「なんでですか?」
「……騙すような形になってしまったからな。あのリス頭が良いようだし」
「ところで、あのリスなんか名前とか無いとですかね?」
「盤君、急に入ってこないでよ!」
「同じ話題やけんが、よかろうもん。ね、真田さん」
すると真田はケージの前へと移動した。ガッシャンガッシャンとうるさく反復横跳びしていたリスが、小屋の屋根の上で動きを止める。
「名前はまだ無いそうだ」
言って真田は、少しはみ出したふわふわの尻尾に手を伸ばす。リスはひょいと屋根から一階へと下りた。ひまわりの種を手に取ると、カリカリと殻を破り始めた。
「じゃあ何かつけてあげなくちゃ!」
神林が目をキラキラさせて言う。
「タマとかどうね?」
「それ猫だよ盤君」
「つまらんやっちゃね兵悟君は。固定概念は捨てんと!」
「でもタマとかポチとか可愛そうだろ?」
「じゃあ兵悟君は何かあるとや?」
「いや、ないけど……」
「シマなんてどうっすか?」
いつの間に寄ってきたのか、武山が口を挟んだ。
「シマ……」
真田がポツリと復唱すると、石井は慌てて否定した。
「何言いよっとや、お前は! これやから軍曹の怖さを知らんヤツは!!」
「軍曹? ああ、嶋本隊長。……もしかしてシマって呼ばれてたりするんすか?」
「同期や上の者はそう呼んでいるな」
「そうですか。じゃあ、チマ」
武山はケロリと言う。真田は律儀に復唱する。
「チマ……」
すると、リスの耳がピクリと動いた。真田は次は、呼びかけるようにして声に出した。
「チマ?」
するとリスは、ひまわりの種の殻を破るのを中断して顔を上げた。しばらく真田を見つめ、でも真田から何もないとわかると、再びひまわりの種にかぶりついた。
次は石井が呼ぶ。
「チマー」
リスはやはり顔を上げた。そして、しばらくしてまたひまわりの種にかぶりついた。次は神林が呼んだ。それに武山の声も被る。
「チマー」
リスは顔をあげ、きょろきょろと二人を見ると、またひまわりの種にかぶりついた。ひまわりの種の殻が半分ほど取れると、リスは果肉の部分だけを口に入れた。噛むでもなく、新しいひまわりの種に手を伸ばす。
「見事に、チマに反応しますね、こいつ」
「うん」
「じゃあ、こいつはチマで決定やね! ね、真田さん」
「……まあ、本人がそう認識したようだから、他の名前をつけても迷惑なだけだろう」
そうして、リスの名前はあっけなくチマに決定した。
