You are the apple of my eye. 2
驚いた。
「つらい。あいたい」
自分の言葉かと思った。
ぽろりと零れた。そんな表現が似合うと思ったその言葉は、本当に一滴の雫の様で。静かに、だけどしっかり、波紋を広げた。そして波紋が広がりきる前に、また一滴、ぽろりと零れてきた。
「とおい……」
その一滴は、どこまでもどこまでも波紋を広げた。
遠い。だって、日本とインドネシアだから。
そう言ったら、嶋本はきっと怒るのだろう。
物理的な距離だけど、物理的な距離じゃない。わかってる。
だって、嶋本の頬を伝う涙が、見える。ぽろりと零れた雫はきっと、涙だ。
「泣くな」
「っ。……泣いてません」
「そうか」
「隊長こそ、泣かないでくださいよ」
鼻をすすった音は聞こえなかったふりをして、答えにならない答えをする。
「海も空も、月も太陽も、なんの慰めにもならない」
それが、声を聞きたいと思った理由。
だけど、脈絡のない言葉に、嶋本は「え?」と声を出した。
「嶋本がここにいない。それが全てだ」
「……」
「嶋本?」
「…………」
また鼻をすすった気配がした。もちろん、気付かないふりをする。
「あいたい」

次は自分が言った。いや、零れ落ちた。溢れて零れた。溢れだした想いはとどまらない。
「会いたい。触れたい」
溢れるのは同じ『想い』だけど、零れ落ちるのは涙じゃない。自分から零れ落ちるのは、欲だ。言霊とはよく言ったもので、言葉が零れ落ちた先から欲は膨れ上がる。
「抱きしめたい。抱きしめて、キスしたい。近くにいない事がこんなに辛いことだなんて、思わなかった」
聞いてか聞かずか、嶋本は大きく一つ息をついた。
「あと半年です」
静かな声だ。雫はもう零れないのだろう。
「もう一回、半年過ごせば、会える」
「長いな」
「けど、あと半年耐えれば、もう、辛くない」
「そうだな」
「ええ」
「しまもと」
「はい?」
一度溢れだした想いは、なかなかとどまらない。
「しまもと」
「はい」
「……」
「なんですの?」
雫の気配はすっかり消えて、ふわりと笑う気配がした。
「あいしているよ」
半年後、再び会えた時。溢れる想いのままに欲を零そう。
触れて、抱きしめて、キスをして。もっとたくさんのことをする。
その時のため、零れ落ちる欲に、言葉で無理やり蓋をした。
(おわり)
絵は祗諳符楽座の海韻昇梧様が描いてくださいました。
嬉しすぎるのでUP。ええ、ただの自慢です。
