一緒に 24
翌日の訓練は、鞭打ちが治っていることを確認されると、俺一人だけ防基へ行かされた。
何事かと思えば、リハビリだと言われた。体は問題ないし、医者からも復帰の許可は出ているので、何のリハビリかはよくわからない。
とりあえず防基に行くと、一ノ宮さんと新人隊がいた。新人達が休憩している間に俺のリハビリは始まった。
「じゃあ、嶋ちゃん。入って」
一ノ宮さんは気持ち悪いくらい優しく指示を出す。
『潜って。良いって言ったら上がってきて』
『あっちまで泳いで、潜水で戻ってきて』
『平気? じゃあ上がってきて』
『そこから飛び込んで』
『波と同じ方向に泳いでって。向こうまで行ったら戻ってきて』
『次はリペ降』
『平気? ホントに?』
『じゃあ次はダイブして』
『平気? そう。じゃあ、次、波とダウンウォッシュつけるから。もっかいね』
そして、2階に上がって、プールを確認して、俺はようやく気づいた。これはリハビリじゃない。水や海や高い所、そして救助活動に、俺が恐怖しないかを確認している。
精神科を提案されたのは、トラウマを心配してのことだったのか。
気づいてしまうと、かえって恐怖心が芽生えた。
大丈夫。今まで全部クリアできてる。大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、ダイブした。
水面に顔を出すと、そこにいたのは気持ち悪いくらい優しい一之宮さんではなく、恐怖の塾長だった。やっぱり俺は、大丈夫だったらしい。
その後、新人隊とともに訓練に参加して、俺のリハビリは1日で終了した。
訓練終了後、一之宮さんに
「記憶が混乱しちゃうくらい怖い思いしたって聞いてたから、どんな情けない姿見れるか楽しみにしてたのに。全然面白くなかったわー」
と言われた。物騒なもの言いだが、心配してくれていたのだと思うと生意気な口なんてあまりきけなかった。
「おもんなくてすいませんねー」
と言うと、ヘッドロックをかまされた。
一週間後の当直で、俺は次こそ現場復帰した。もちろん、真田さんとバディを組まされた。
そして、黒岩隊長にまた聞かれた。
「お前、真田と来年度も同じ隊で働きたいか?」
「……どっちでも良いです」
「嫌じゃなくなったのか?」
「まあ、」
「真田とはバディになれたか?」
「……まあ、」
「そうか」
黒岩隊長は満足そうに頷いた。
「まあ、今更編成に関係ないがNA!」
ガハハと笑って追っ払われた。
今年度ももうすぐ終わる。黒岩隊長にはさんざん心配をかけた。隊が変わる前にきちんとバディになれて良かった。
就業後ケータイをチェックすると、五十嵐さんからメールが来ていた。
『今日はこのままブランチに行くわよ。真田君と3人で』
真田さんを見ると、困ったような笑顔を返された。
航空基地前に車をつけて待つこと20分。綺麗に身なりを整えた五十嵐さんが現れた。
どこに連れて行かされるのかとびくびくしていたら、案の定、ホテルだった。
高層階の、海の見えるレストランで。姫は俺と真田さんを窓際に座らせて、自分だけ海の見える席を陣取った。ひじを付いた手にあごを乗せ、満足そうに微笑む。
「良い景色ね」
「そうですね」
五十嵐さんの意図するところがわかる気がして、俺は同意した。
「真田君はそう思わない?」
聞かれて、真田さんは楽しそうに笑った。
「そうかな」
「あら、そうよ。ねえ、シマ?」
「はい」
五十嵐さんも、ずいぶんと気をもんだことだろう。
このタイミングで3人で会うということは、黒岩隊長から話を聞いているに違いない。
真田さんの目を開かせると決めてから3年。
俺はようやく、目標を真田さんへ再設定した。
これからは、追いかけて、追いつくだけじゃない。一緒に頑張って、一緒に成長していく。
一緒に頑張ってくれる人がいることの意味を、俺はもう、話だけじゃなく知っている。
俺はいくらでも次へ進める。真田さんと一緒に。
(おわり)
