わずらう 2

 

「とりあえず生中3つと、特性海鮮サラダと大根サラダと牛肉の味噌炒めレタス包みに、芝海老と季節野菜の強火傷めXOジャンソース一つずつ。ザーサイの浅漬けと海老のマヨネーズ炒めと八宝菜と麻婆豆腐は二つずつ。あ、あと点心三種盛り合わせも3つお願いします」

 四人がけの四角いテーブルに通されて、嶋本と高嶺は真田に対面するよう席に着いた。個室の円卓に興味を示した真田を無視して、嶋本はそそくさと注文する。普段なら楽しいこの面子も、真田が壊れたロボットに成り下がってしまっているのではたまったものじゃない。できるなら、一刻も早くこの場を立ち去りたい。
「良い雰囲気だな、ここは」
 真田の思いがけない言葉に、嶋本は反応が遅れる。
「ああ、そうですね。とてもじゃないけど特救隊でゾロゾロ来られへん」
「……何ふてくされてるんだ?」
「ふてくされてません」
「ところでシマ、ちゃんぽんは?」
「麺類・ご飯類はしめです」
「やっぱりふてくされてる」
「……ふてくされてません」
 こんな時ばかり人間に戻ってくれる真田とは目を合わさずに、嶋本は使ったおしぼりを綺麗にたたむ。沈黙が生じたが、店員がビールを持ってきたので長くは続かなかった。
「まぁまぁ、乾杯しましょう」
 高嶺がいつもの穏やかな笑顔でピルスナを掲げる。二人も倣って乾杯するが、やはり場は盛り上がらなかった。次々に運ばれてくる料理をひたすら平らげ残りも少なくなった頃、嶋本がゆっくりと口を開いた。
「隊長、今日やたら念入りにスーツの塩抜きしてはりましたね。やりすぎはいけませんよ」
「ああ……そうだな。気を付ける」
 普段とは違う様子に、真田は度肝を抜かれる。ただ、高嶺が普段通りであることと、嶋本がただふてくされているのではないことだけ見てとると、平生を装って返事をした。しかし、続きを話す嶋本はやはりどこか別人の様で、真田は相槌を打つことしかできない。
「最近そんなことばっかやないですか。今でこそみんな慣れてしまいましたけど、最初は心配してたんですよ」
「そうだったのか……」
「本当にわかってるんですか。俺は士気に関わることを危惧してるんです」
 真田に、わかっていなかった、なんて答えることはできなかった。副隊長として話をしているであろう嶋本に、隊長として答えないわけにはいかなかった。しかし、休憩時間だけであれ隊員に心配をかけ、万が一にでも最悪の事態が起きかねない状況を生み出していた事実に、返す言葉が無かった。
「何があったのか知りませんけど、すぐ対処してくださいよ。何のために副隊長がいると思ってるんですか。……俺が駄目なら、高嶺もいます」
「ああ」
 真田はそれだけしか返事ができなかった。不甲斐なさをどうにかすることなどできなかった。

 

 翌日、真田はまだおかしかった。昨日の今日だ、期待はしていなかったが、これはあんまりだ、と嶋本は天を仰いだ。
 真田の様子は悪化していた。真田は休憩時間、何をするでもなくただ呆けていた。何も手に付かない、と言うよりは固まってしまっているかのように微動だにしない。

 あんの、ロボ。次はフリーズかい。

 しかし忠告済みの今、様子を伺う必要はない。嶋本は真田の元へ行き、肩に手を置き話しかける。
「隊長、悪化してますよ」
 真田はやはりはっと顔をあげ、すまないと謝る。嶋本はいいえ、とだけ答えると、隣のデスクに座った。俺ね、とポツリと話し出せば、真田は体ごと嶋本に向き直った。
「俺ね、昨日高嶺にインタプリタって言われたんですよ。本人を前に言うのもなんですけど、他の人より隊長をわかってると自負してるし、周りにもそう認識されてえるんだと思って嬉しかったです。でも、だからこそ、今はなんか、くやしいんですよ。隊長の助けになられへんくて」
 静かに話す嶋本に、真田も神妙になって相槌を打つが、嶋本はすぐいつもの顔に戻った。
「こう、イーってなるんですよ、今の隊長見てたら。せやから、早よ元戻ってくださいね」
そして言うだけ言って去ろうとする嶋本を、真田は慌てて呼び止めた。

「シマ、今夜空いているか?」


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