ロボと心と愛のカタチ 前編 特救編12
嶋本は、真田への想いを忘れることにした。これまで必死に気づかない振りをして否定をしてきていたけれど、もうそれだけじゃ駄目だと思った。これ以上、情が移ってしまっては、きっと捨てられない。現場で、判断はできても、決断できなくなる。
真田隊副隊長最大の仕事は、隊長真田甚を見捨てる決断をすること。見捨てることを前提に、指揮を自分へと移すこと。
今なら、まだできる。
嶋本は高嶺がいる輪を探し出し、そちらへと駆けて行った。
高嶺は、放っておいてくれるから、良い。
はい、と手渡された缶ビールを一気に飲み干す。酔いたい。でも酔いたくない。
空になった缶を握り潰し、考えるでもなく考える。辛いと言った、嫌だと言った、ロボット。自分の意見を言った、ロボット。
ロボットは急速に人へと近付いていっている。
初めてロボットの家で面と向かって話をした時。あの時はまだ、おまけ程度に感情を持った、命令に答えるだけのロボットだった。
ロボットは律儀に茶菓子を用意して待っていた。わざわざ買いに行ってくれたのかと問えば、基地長のだと返ってきた。
「毎回何か持って来ては置いて帰る。俺は食べられないから、全部賞味期限が来たら捨てている。だから、無駄にならないならそれがいい」
ロボットは嬉しそうに話した。顔には、笑顔。
「マジですか。なら俺が食べに来ますよ」
何気なく言ったこの言葉にも、嬉しそうに言葉を返された。
「それは楽しみだ」
「楽しみ、ですか?」
「ああ、楽しみだ」
「そっか……。俺も楽しみです」
そう言って、少しだけ茶菓子を堪能して本題に入った。
「……ねぇ、真田さん」
「なんだ」
「今日ね、真田さんが作られた目的聞こうと思って、来たんです」
「そうか」
「教えてください」
「特殊救難の対応だ」
「それだけですか?」
「それだけだ」
「それならなぜ、人型なんですか? 人型である必要性は?」
「それは要救助者を……」
「そんなことわかってます。そうじゃなくて、いつ故障するかもわからないロボットを使うリスクは? 要救助者に辿り着いても、そこで故障する可能性は? ゼロじゃないでしょう? それなら、ロボットはあくまでも道具であるべきだ。人型で、温もりがあって、感情があったって、人間じゃない」
「そうだな」
「なぜ、人型なんですか? なぜ、感情があるんですか?」
「…………」
「ねぇ、真田さん。特殊救難の対応が目的なら、楽しいという気持ちは必要ないはずなんです。そんな風に困る必要はないはずなんです。だから、そんな感情、インプットされてるはずがないんです」
「そうか」
「はい」
この日は、このロボットに自我があるのかを確認するために来たのだ。目的によっては自我が必要になると考えての質問だったのだが、必要性が見当たらなかった。
「……真田さんに、自我があると解釈していいんですか?」
「わからない。感情はインプットされているが、感覚というものが無いから、それを自我と言えるのかによる」
「感覚……。絵を見たり音楽を聴いたりしても、何も思わないってことですか?」
「ああ」
「映画やドラマを見ても?」
「ああ」
「でも、楽しいっていうのは、感覚ですよね?」
「感情じゃないのか?」
「感覚が感情をそうさせるんだと思います」
「難しいな」
「多分、形容詞にあたる言葉は感覚です。暑い、寒い、冷たい。嬉しい、悲しい、切ない。……でも、嬉しいという気持ち、悲しいという気持ち、切ないという気持ち。これらは感情です。感情はあくまで、気持ちの話なんだと思います」
「なるほど。しかし俺には五感が無いから……」
「無いのは五感だけじゃないですか」
……こん時に俺が間違えたんやな。
思い出してみて、最初に自分が間違えたのだと気が付いた。ロボットの笑顔が見えた瞬間に、話をしていて、ロボットに五感が無いことを残念に思ってしまった瞬間に、自分はロボットがより人間的であることを望んでしまった。そして、行動学がある程度インプットされていることをいいことに、副隊長という立場を利用してそうなるよう仕向けていたのだ。
真田への想いを、忘れなければならない。そして、認識し直さなければならない。
隊長は、ロボットや。人間的で、心があっても、人間やない。
道具や――――
