ロボと心と愛のカタチ 特救編前編 13
「シマ、シマ?」
缶を握りつぶしたままだった嶋本を、高嶺は軽く肩を揺さぶって呼んだ。
「は? え、何?」
慌てて顔を上げると、穏やかな笑顔からとんでもないセリフが飛び出してきた。いや、穏やかな笑顔とその内容は合ってはいるのだが。
「真田さんって、作られただけあって誰が見ても格好良いですよね」
「はぁ? ……あ〜。まぁ、な」
「絵になりますねぇ。真田さんと桜」
「なるやろな」
「と、女の子」
「女ぁ??」
「ほら、あそこ。逆ナンですかね。ロボットにナンパの甲斐性あったら嫌ですしね」
そう言って高嶺が指差したのは、嶋本が先ほどまで話をしていた場所だ。オシャレめの女の子が二人、真田と話をしている。
「うわー、ホンマや」
「行かなくて良いんですか?」
「……何で行かなあかんねん。気になるなら高嶺が行けばええやんか」
そっけない返事に、高嶺は意外そうに聞いた。
「何かあったんですか?」
「別に何も。ただ、真田さんをロボットやと再認識しただけや」
「ならなおさら行かないと。真田さん、ロボットなんですから」
笑顔で言う高嶺に逆らえず、嶋本は渋々立ち上がった。
真田さん! と、わざと声を張り上げて駆けつける。女の子二人はそれでも真田の傍を離れない。
傍まで行くと女の子がクスリと笑う声が聞こえたが、構っていては時間がもったいない。
「真田さん、行きますよ」
言うと真田は、女の子に「失礼します」と言ってその場を離れた。女の子二人もそれ以上はどうにもできないようだった。
嶋本は少し前を歩いてゆく。
「だから基地長の所へ行けと言ったんです」
「だが、嶋本が来てくれたじゃないか」
「……いつでも俺が来ると思わないでください」
「来てくれないのか?」
「もう、来ません。……もともと俺がいなくて大丈夫だったんです。学習能力も目を見張るものがありますし、問題ないはずです」
「そうか……」
少し沈んだ真田の声に、嶋本の心はチリチリと痛んだ。沈んだ声がプログラムによるものだと自分に言い聞かせても、その痛みは一向に取れなかった。
花見から二週間。嶋本は上手くやれているつもりだった。真田がロボットであると再認識をした上で、それなりの行動をとるようにしていた。それに対する隊員からの意見というものはなかったから、誰も違和感など覚えていないと思っていた。ロボットも相変わらずで、変化したのは自分のロボットへの認識だけだとばかり思っていた。
しかし、思わぬ所で変化が起きていた。当事者だからこそ気付けなかったのだろうが、当事者だからこそ気付くべきだった。
長倉がこっそりとこんなことを言った。
「真田さん、最近元気ないですよね」
「元気ぃ? ロボに元気も何もあったもんやないやろ。俺が真田さんに自我があるだの言ったとき否定したのは皆やんか」
「いや、うーん、そうなんですけど……。なんかこう、元気ないんですよ」
「はあ?」
「他の皆も気にしてるんです。どうにかしてください」
「んー……。ちなみに、元気なくなったのっていつや?」
「えっと。調度、花見の次の日ですね」
「……わかった」
ロボットがおかしくなったのが花見の翌日ならば、原因は一つしかなかった。そしてロボットだから、自覚なんてものもないのだろう。変化はプログラムにしかないのだから、ロボットはその命令を実行するだけだ。
原因、俺かい。
ロボットのメンテナンスは副隊長の仕事。それなのに原因が自分では元も子もない。
自我を持ってしまったロボットの扱いは、そこらの人間より難しいようだ。
嶋本は、ロボットに対する接し方がわからなくなった。
