ロボと心と愛のカタチ 特救編前編 19
時は、着実に過ぎていった。
出動も何回かあり、せっかくの休日が潰れることもあったが、特殊救難隊とはそんなものだ。三隊はロボットのおかげか、一人の死者も出さずに済んでいる。だからだろうか。三隊が休みのある日、待機の隊も準待機の隊もいるのに、ロボットと嶋本にだけ出動要請があった。
嶋本は確信した。
時が、来たのだ。
ロボットを見捨てる時が。
おそらく、見捨てられる存在が欲しくて、三隊から二人にだけ出動要請がかかった。嶋本はそう判断した。
傾き、今にも沈没しそうなフェリーで悪戦苦闘する一隊の援護が、今回の仕事だ。最後の要救助者が見つからないらしい。嶋本はロボットに指示を出した。
「映像、音声、サーモ。データは全部飛ばしてください。何か気になる点があれば言ってください」
「了解した」
巡視船からロボットを見送ると、黒岩は一隊隊員に撤収を命じた。いつ沈むかわからない船に、大事な隊員を残してはおけない。フェリーは深度百メートルの海上に辛うじて浮いているだけだ。
フェリーは、沈まないのが不思議なくらい浸水していた。モニターは三六〇度どこも水浸しで、要救助者の安否が心配される。
しばらくして、雲行きもあやしくなってきた。フェリーも、着実に海に飲み込まれていっている。
「空が荒れる前に要救助者見付かれば良いんですけど」
モニターの前で嶋本が呟く。その言葉に黒岩は空を見やった。
「あやしくなってきやがったな。……それにしても、見てるだけと言うのは落ち着かんな」
「ええ」
しかし二人の願いも虚しく、要救助者は一向に見つからず、雨も降り出した。フェリーが沈まないことだけが救いだ。
嶋本は骨伝導マイクに手をやる。
「真田さん、雨が振り出しました。風も出てきてます。自分の安全の確保にも十分注意してください」
『安全の確保、了解』
その瞬間だった。モニターの映像がぐらりと揺らいだと思ったら、自分達の視界もぐらりと揺らいだ。
大波だ。船の傾きが悪化した。
黒岩が慌てて確認をとる。
「真田、大丈夫か!」
返事がない。モニターの映像も安定しておらず、嶋本も慌てて声をかける。
「真田さん!」
少し待つと、映像がだんだんと安定してきた。そしてようやく、大丈夫だと返事があった。
『要救助者を発見した。今向かっている』
嶋本と黒岩は顔を見合わせる。要救助者なんてモニターに移らなかった。
「モニターでは確認できていないぞ」
黒岩が真田に言う。
『見えたのは一瞬だったから。そちらに届いている映像は何も処理されていないから見辛いだろうし』
二人がそうか、と頷いたとき、モニターに人影が映った。
「おった!」
ロボットは走り出したのか、モニターの画面遷移が早くなる。要救助者がバストアップになったところで、画面遷移は止まった。要救助者は五十代くらいの小柄な男性。生きている。
ロボットが要救助者と話をする声が聞こえてくる。怪我はかすり傷程度で、他に異常もなく命に別状はないようだ。ロボットは要救助者にマスクを付けるとおもむろに要救助者の傍を離れた。何事かと思えば、小声で話しかけてきた。
『要救助者は発見できたが、先程の揺れで出口が塞がれた』
「あ……。言われてみれば、あの揺れで、来た道塞がれてますね。今いる所……もドアなんて見当たりませんね」
「てかさっきの揺れで悲惨なことになったな。……真田、ハッチだ。要救助者なら出られるだろ」
『そうだな』
「嶋本を向かわせる」
「は、俺ですか?」
「真田と一番息が合うのはお前だからな」
「了解です」
