ロボと心と愛のカタチ 特救編前編 20
ハッチから要救助者のボンベを受け取り、そしたら要救助者を引っ張り出す。要救助者を他の隊員に引き渡したら、ロボットを助けに行く。
それでこの海難救助は終わるはずだった。
要救助者をハッチから出した所で、フェリーは再び大波に教われた。次こそフェリーは沈没してゆく。
嶋本は目を疑った。要救助者がいなければ、冷静さを失うところだった。
要救助者は、真田が中にいることをわかっている。要救助者を不安にさせてはいけない。嶋本はフェリーを背に海面へと上がって行った。
「要救助者確保ー!」
叫ぶと、ボートで待機していた黒岩がやって来た。要救助者を引き渡し、嶋本はすぐさまフェリーへと戻ろうとした。しかし黒岩が腕をがっしりと掴んで許さなかった。
行かせては、死なせるだけだ。
「特救隊の誓約を忘れたか」
「今行けば間に合います」
「お前が間に合ったところで、真田をどこから脱出させる? 脱出ルートが他に無いからハッチから救出したんだろう」
「じゃあこのまま努力もせずに見捨てるんですか!」
黒岩はいささか驚いた。嶋本がこれ程取り乱すとは思いもしなかったのだ。
「できることがあればとっくにやっている。お前がやろうとしていることは努力じゃない。死ににいくだけだ」
「……真田さんも、死にに行ったわけやない!」
「そうだ、真田は救助に行った。そしてたまたま戻れなくなった」
「特救隊の誓約は生きて戻ることです。真田さんには誓約を全うする義務があります」
「真田は例外だ。お前もわかっているだろう? なぜそんなに取り乱す ?あれはロボットだ」
「……」
嶋本に答えられるはずがなかった。
情が移るようなことがあってはならないことなど、痛いほどわかっているから。自分の心は騙せても、騙す理由を脳が理解してしまっているから。何度自分に真田はロボットだと言い聞かせても、何度ただのプログラムだと言い聞かせても、それは無意味なことだった。
嶋本にはもはや、真田はかけがえのない人物だった。
「巡視船に戻るぞ」
嶋本はボートへと引っ張りあげられた。
巡視船に戻ると、モニターが付いたままだった。電気系等の落ちた船内は明かりなどなく、映像はかろうじて流れていることが確認できる程度だ。
「真田、無事か?」
黒岩が問いかける。
『……』
返事が無い。ただ、ジジジジジと雑音が聞こえるだけだ。
電源を切ろうとする黒岩の手を、嶋本が止める。
「映像は流れてます。音声も、こっちには聞こえてへんけど返事をした様子が伺えます。きっと今真田さん、CPUフル稼働で頑張ってはる」
「だからどうしろっていうんだ。フェリーは既に深度五〇メートルを越えている。俺達にできることはもう無い。……お前が電源を落とせ。諦めがつくだろう」
その言葉に、嶋本は黒岩を睨み付ける。
反抗の合図だった。
嶋本は電源には手をのばさず、骨伝導マイクへと手を伸ばした。
「真田さん、音声以外の全ての通信を切断してください」
嶋本は映像が切れるのを確認すると、再び話しかけた。
「いいですか真田さん。そのフェリーはもう深度五十メートルを越えています。助けに行けません。だから、命令します。何が何でも脱出してください」
黒岩が慌てて止めに入る。しかし嶋本は聞かずに続けた。
「音声も切断して構いません。可能なだけ脱出にタスクを回してください」
『……りょ、かい』
そして音声も、ブツリと切れた。
「どういうことだ!」
黒岩が怒鳴る。
「ロボットとはいえ所詮プログラムです。命令を受けた以上、なんらかの返事をします。だから、待ちます。真田さんは必ず脱出します」
