ロボと心と愛のカタチ 特救編前編 3

 

 嶋本がロボットの下に付いて一ヶ月が経った。まだ海難にはありついていないが、海が平和ならそれが一番だ。それに、追われることが無いということは、ロボットを理解するためにいろいろできるということ。毎日それとなく行ってきたテストは順調で、嶋本によるロボット取扱説明書製作はスムーズに進んでいる。
「お前よくあのロボの下で平気で働けてるな!」
 忘年会を兼ねた、一隊と三隊の合同の飲み会。一隊隊長黒岩は可愛い教え子を見つけるなり、ピッチャーを持ってやって来た。流石にこの席にロボットの姿は無く、皆言いたい放題だ。
「ロボもコンピューターやとわかればこっちのもんです」
 嶋本はけろりと言ってのける。
「黒岩さんが音を上げたことを俺がやってのける日も近いですよ〜」
 嶋本はこの言葉に黒岩の鉄槌が下るものだと思っていたが、真面目な声が返ってきて固まった。
「どうだろうな」
「?」
「お前は確かに今までの副隊長よりもよくやっている。だが、それだけだろう?」
「どういうことですか?」
「あいつに、ロボなりに感情があるのは知っているな?」
「はい」
「なぜあると思う?」
「そら、要救助者に不安を与えない為と、隊員を叱ったり褒めたりする場合が出てくるから」
「それだけか?」
「他に何かあるんですか?」
「……お前もすぐ音を上げそうだ」
 どういうことだ。ロボットに個人の感情があるとでも言いたいのだろうか。
 嶋本が真剣な顔つきになったのを確認して、黒岩はその大きな手で嶋本の背中をバシバシ叩いた。
「なんてな、冗談だ。ちょっとばかりできるからって気を抜くなっつーことよ! GAHAHAHAHA!!!!」
「ちょお! ホンマにびびったやないですか!! 変な冗談やめてくださいよ〜!!」
 嶋本は黒岩に合わせて笑ったが、一つ気にかかる点があった。
 副隊長就任初日に見た、ロボットの笑顔だ。
 あの時はまだ会って数分で、褒められるようなことなどしていない。だから、ロボットに笑顔になるような命令は出ないはずだ。他に心当たりがあるとすれば自分の発言。
『多少体が冷たくたって隊長は誰がどう見ても人間なんですから、驚きませんよ』
 ロボットは確実に、この言葉に笑顔になった。暗に、『あなたをロボットだと知らない人は、人間だと信じて疑いませんよ』と言った言葉。もし本当にこの言葉から笑顔が引き出されたのだとしたら大変なことだ。
 あのロボットには自我があるということになる。
 いや、もしかしたら、人間臭く作られているのだから、人間扱いされたら嬉しくなるようなプログラムでも組まれているのかもしれない。一度ロボットと話をしなければ。
 決めてからの嶋本の行動は早かった。いや、早くしなければならなかった。ロボットに対する見解を一から見直さなければならなくなったから。
 翌日の休日から取り掛かれば、ロボットなのに一人暮らしをしているということで驚いた。休日は基地で充電でもされているのだろうと思っていただけになおさらだ。基地長から電話番号と住所を教えてもらい、住所が羽田基地のすぐ近くであることに酷く安堵した。一応基地から目が届く所に置き、人様に迷惑がかからないよう配慮しているということだ。
 電話をかけると、当たり前だがロボットが出た。受話器越しの声は普段よりピンと緊張を含んでいた。
「おはようございます。休日にすいません。嶋本です」
 言うとロボットは驚いたような声を上げた。
「なんだ、嶋本か。この番号は基地長しか知らないと思っていたから、出動要請かと思った」
「アハハ、すいません違います。今日はちょっと話したいことがあって……。できれば会って話したいんですけど、時間とれますか?」
「ああ、すぐにでも大丈夫だ。場所はどうしようか」
「あ、そっちに行ってもいいですか? 実はもう住所も聞いてあるんです」
「手回しが早いな。わかった、待っている」
 そう言うロボットの声は嬉嬉としていて、嶋本は驚きを必死で隠した。
「嬉しそうですね」
「ああ、嬉しい」
「何故です?」
「休日の相手と言えばこれまでは、基地長と猫しかいなかったから」
「そうなんですか? じゃぁダッシュで行きますね」
「うん」
 嶋本は少し恐ろしくなった。
 このロボットは改めて話をするまでもなく、すでに自我があるのかもしれない。

 

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