ロボと心と愛のカタチ 特救編前編 5

 

 ロボットに自我があるかもしれないという嶋本の意見は、他の隊員には聞き入れられなかった。
 感情を学習する原理がわからないので、自我があると言っても、心を持って接すれば、その『心』をインプットしてロボットもそう行動をとるはず。周知した内容はその程度のことにとどめておいた。
 しかし隊員達は黒岩と同じく、ロボットに心なんて感じたことはなく、表情の変化もほとんど確認できていないため、聞き入れられなかった。それでも自我の点を除いたロボット取扱説明書は好評で、仕事はより円滑に、休憩時間はより楽しく物事が進むようになった。
 はじめこそ皆ロボットの知られざる扱い方・学習能力の高さに驚いたが、次第にそれにも慣れてきた。ロボットにも慣れがあるとは思えないが、ロボットの冗談も増えてきた。
 良い傾向だ。ギスギスした勝手悪さが無くなる日も遠くない。
 休憩時間、嶋本は少し離れた所から輪の中で笑う真田を見ていて、自然と笑みがこぼれた。
 その視線に気付いた真田が、どうした、と話かける。
「いえ、何も」
 真田は輪から抜け、そう答えた嶋本のもとへとやって来た。
「ずっと見ていただろう?」
「ああ、目線は相手に合わせても、視界は三六〇度でしたっけ。うかつにボケッとできませんね」
「ボケッとしていたのか」
「ええ、まぁ」
 嶋本にはロボットは表情豊かになっていっているように見えていて、驚いた顔をしたかと思えばふわりと笑顔を見せるロボットの姿を目撃していた。それがわからないという隊員達の方が嶋本には不思議に思えた。
「こっちを見ていて笑顔になったから、どうかしたのかと思った」
「笑顔!? なってました?」
「なっていた」
「うっわ、気ぃ付けな」
「なぜだ? 嶋本はもう少し気を抜いても良いと思う」
 真田はそう言うと、嶋本の眉間を人差し指で触れた。
「皺が、固定してしまう。せっかく良い表情ができるのに、眉間の皺が固定してしまってはもったいない」
 すると嶋本は、耳までボンと赤くなった。まっすぐな言葉だけでも慣れないのに、相手はロボットだから他意が無い。何も考えていない分質が悪い。平生を装おうにも、ロボット相手に真っ赤になっているであろう自分がもっと恥ずかしくなって、いたたまれなくなった。
「き、気を付けます!」
「だから気を抜けと言っているのに」
 恥ずかしさを紛らわすため慌ててそう言ったが、返ってきた声は穏やかなもので、嶋本はいっそ自分がアホらしく思えた。
「そうだ嶋本、昨日基地長がうちにビールを置いていったんだ。飲みに来ないか?」
「え? 良いんすか!」
 嶋本の表情がパッと明るくなる。
「もちろん。基地長は一度来たら一週間は来ないから、問題無い」
「やった! ビール!!」
「……そんなに美味いのか? ビールは」
「んまいっすよ〜。仕事の後のビール程美味いものは無いんじゃないっすかね!」
 ビールの美味しさを思い出しているのだろう嶋本は、これでもかと顔を輝かせる。真田も笑みがこぼれた。
「じゃあ、決まりだ」
「よっしゃ、俄然やる気出てきた!」
 頑張んで〜! と勇む嶋本を、真田は変らずに笑顔で眺めていたが、急に真面目な顔つきになった。
「休憩時間は終わりだ。仕事に戻ろう」

 

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