ロボと心と愛のカタチ 特救編前編 8
嶋本が真田の下について三ヵ月。嶋本が真田の家に頻繁に行くようになってからだと一ヶ月と少し。大きな海難が起こることは無く、出勤要請はあれど、穏やかな時間が過ぎていった。
ただし、真田の様子がおかしくなったことを除いて。
真田の様子がおかしくなったと言っても、変な動作をするだとか、変なエラーが出るというわけではなくて、ロボットのくせにぼけっとするようになっただけだ。話しかければすぐ返事をするから嶋本は特に気にしてはいなかった。しかし、嶋本以外の隊員が話しかけても返事をしないらしく、そのためフリーズしているようにしか見えないから、その度に嶋本は再起動を迫られる。幸い出動の際にそのようなことはなかったから特には困らなかったのだが、嶋本はいい加減煩わしくなってきた。真田がぼけっとするのは、決まって嶋本が近くにいない時なのだ。だからいちいち作業を中断して確認しに行かなければならないし、嶋本にとっても、呼びに来る者にとっても時間の無駄だ。だから嶋本は一度試しに呼びに来た隊員に再起動の仕方を教え、再起動させてみた。そしたらまた動き出したということだったので、再起動の仕方を周知し、説明書にも加えた。
それから嶋本が呼ばれることはなくなり、嶋本は何度か他の者が再起動している様子を確認していた。
と言うより、嶋本がその様子を確認する回数は日に日に多くなっていった。他に悪い箇所は無いからと気にせずにいたが、これはあまりに酷すぎる。嶋本は休日に真田をメンテナンスに出したが、異常無しで戻ってきた。相変わらず再起動される日々が続いているが、その頻度も上がるところまで上がったのか、一定の頻度を保つようになった。
そんなある日。
嶋本は仮眠中、部下に起こされた。
「嶋本さん! 嶋本さん、起きてください! 真田さんがオチちゃって……」
嶋本は目を開けるも起きる素振りは見せず、面倒そうに口を開いた。
「……はぁ? ……起動の仕方、教えてあるやろ」
「それが起動しないから困ってるんです!」
「……間違えてんちゃん?」
「誰がしても駄目なんですよ。ホラ、早く!」
言いながら部下は嶋本を引っ張り上げた。
行ってみると、真田は確かに自分のデスクで固まっていた。隊員はそれを取り囲み試行錯誤している。
しかし嶋本には、動いていないだけで、起動している様に思えた。きっとまたボケッとしているに違いない。
「今、起動した状態なんか?」
「はい。そのはずです」
嶋本はロボットのもとへ行き、ロボットの頭へと耳を近付けた。
カリカリカリカリカリ……。
「動いてるやん」
「ウソ!」
「お前ら、起動さしてすぐに何かいらんことしたやろ」
「話し掛けた程度ですよ」
「それをいらんことっちゅうねん。自分から動き出すまで何もすんな。もう仕事戻れ。俺がみてる」
隊員が自分のデスクへ戻るのを見届けると、手近の椅子に腰掛けた。
……CPU使用率百パーセントみたいな音やったな。
「これでどもこ悪ないねんからなぁ……。何なんやろ」
そう考え込んだ瞬間、独り言に思わぬ反応があった。
「何かあったのか?」
真田は、何事も無かったかのように嶋本の返事を待っていた。
その後嶋本は、高嶺にこっそりと話しかけられた。人気の無いところまで行って、それでも声を抑えたまま高嶺は話し出した。
「真田さんなんですけどね、どうもシマじゃないとすんなり起動してくれないんですよ」
「え? そうなん? 俺皆が再起動してるとこよく見かけるけど、すぐできてんで」
「そうですか? 毎回十五分はかかってますよ」
「そんなにか……」
「それで、今の発言でほぼ確信しちゃったんだけどね、真田さん、シマがいなきゃ駄目なんじゃないかと思って」
「はぁ?」
「シマが来たら起動するんですよ、真田さん」
「いや、意味がわからん」
「だからね、シマが近づいてきたり、シマの声がしたりしたら、途端に動き出すんです。まるでシマがスイッチみたいに」
冬が終わり、春の気配が感じられるようになった、夜中のことだった。
