高校生 14

 

 合唱コンクールが終了して、文化祭が近づくにつれ有はせわしなくなっていった。文化祭が終わればすぐに期末考査、冬休みが来て、三学期が来る。そしたらもう、今年度が終わってしまう。今年度中にOSTを実行しなければ、来年度、有と嶋本の友人は不登校のままだ。
 今年度中にOSTを実行しなければ、クソセンがクソセンのまま来年度も教壇に立つ。
 来年度クソセンを教壇から引きずりおろすには、卒業式前にOSTを実行して、より多くの意見を集めなければならない。卒業式前に実行するには、OSTの許可を3学期に貰うのでは遅い。業者と話をつめて、用意する時間がいる。業者が絡むからには、経費がかかる。今年度の予算にOSTの経費は当然組み込まれていない。学校側はきっと、それを理由に今年度は無理だと言ってくる。学校側の判断はきっと、良くても『来年度からの実施』だ。それでは遅い。
 有は今、経費を理由に無理だと言わせないために、学校中を走り回っている。その他の考えうる反対意見をねじ伏せるための準備をしている。
 有があまりに忙しそうにしているから、文化祭の他にも何か手伝うと言ったが断られた。
「それでお前成績落としてみろ。それすらOST反対意見の一つになる」
「なんでだ。意味が分からない」
「準備に校内一の優等生を巻き込んで、成績を落とさせた。OSTの準備のために、どれだけ周りに迷惑をかける? そんなもの、やらない方が良い。きっとそう言われる」
「ますます意味がわからない。俺の成績は落ちるかもしれない。実施にあたってきっと多くの人に迷惑がかかる。だけどそんなの当然だ。だって15年ぶりに実施しようとしてるんだ。ノウハウを知ってる人がいないんだ。行き当たりばったりになって当然だ。でも、たったそれだけの対価で、今後が良くなるんだ。多くの生徒のためになるんだ」
「そう。だけど、教師は今受け持ってる生徒を守らなきゃいけないし、大人には守らなきゃいけな体裁や面子がある。子供みたいに簡単じゃないんだよ。だから、大人はそれを、立場を利用して何が何でもで守ろうとしてくる。その為に俺たち子供は、一部の隙も作っちゃ駄目なんだ。OSTの準備がきっかけで成績を落としたり何か失敗したりするようなことがあっちゃ駄目なんだ」
 論理も理論もあったもんじゃない。だからこそ有無を言わさないためには、OSTをきっかけに些細なことすら起きてはいけない。
「わかった」
 うなずくと、有の表情が和らいだ。
「だからさ、テスト勉強だけ手伝って」
 上目使いで拝まれて笑ってしまった。
「いいよ」

 文化祭が終わって、あっという間に期末考査も終わった。俺はもちろん、有も成績を落とすことはなかった。これで、OSTにわけのわからないケチをつけられることはない。
 明日の放課後、有は何度目かの特別会議に参加する。そして明日、決着する。
 一回目のOSTはゲリラで行いたいとの有の考えに押尾先生は面白がって乗っかった。その為OSTは職員会議ではなく特別会議が設けられ話が進んでいる。参加者は、有、書記の橋本ゆりさん、押尾先生、各学年主任、教頭、校長、そして理事長だ。校長と教頭は役職柄大反対したが、理事長が経営者の視点から賛成してくれ、話はとんとん拍子で進んでいるらしい。
 しかし、今年度実施するには、やはり経費が問題になった。有は学校中を駆けずり回り、あらゆる人から話を聞き、無駄と不公平を探し出している。それを前回の特別会議で突きつけ、たった今、『今年度の予算のムダについて』理事長発信で職員会議が開かれている。その結果が、明日報告される。その結果次第で、今年度中にOSTを実施できるかどうかが決まる。
 OSTはゲリラで行う。どこからどう話が伝わってしまうかわからないから、OSTに関してうかつに教室で話をすることもできない。俺も有も、落ち着かなくて生徒会室に足を運んだ。
「誰だ、あれ?」
 生徒会室の前に男子生徒が一人がしゃがみこんでいる。生徒会室は基本的に鍵がかかっているため、勝手に入ることはできない。生徒会に用があるのだろうか。
「嶋本……?」
 あの癖毛は、間違いない。嶋本だ!
「嶋本!!」
 呼んで駆け付けると、「おせーよ!」と怒鳴られた。
「待っていたのか?」
「んなことどーでもいい。早く中入れろよ」
 どういう風の吹き回しだろうか。探せば見つからず追いかければ逃げる嶋本が、こんな所で大人しくつかまるなんて。
 有が鍵を開けると、嶋本は我が物顔で入って行って、陽の当たる席を陣取った。俺と有が座るのを確認して、嶋本は口を開いた。
「いつまで経っても報告がねぇんだけど。どうなってんの?」
「報告?」
「来年、あいつを登校させる話。もう2学期終わるってのに、進捗の一つも報告が無い。まさかちんたら構えてんじゃねぇだろうな」
「報告も何も、お前がつかまらないんじゃ無理だろう」
「なんでお前らから聞くんだよ。あいつにすら話が言ってないから今こうして聞いてんだろうが」
 なるほど、嶋本は毎朝友人と話をしているのだろう。期待して待ってくれているのだ。
「多分大丈夫だと思うよ」
 有が答える。しかし嶋本はその答えが気に入らないらしい。
「そんな報告があるかよ。具体的に話せ」
「OST、来年度からは確実に実施される」
「それじゃ遅い」
「明日、今年度から実施できるかどうかが決まる」
「明日?」
「明日の会議で決まる」
「それお前も出んのか」
「出る」
「じゃあ、何が何でも通せよ」
 言って、嶋本は有の目の前に一枚の紙切れをバンと置いた。
「俺、クソセンがいねぇなら授業サボらねぇし、多分特クラだから」
 有が持つ紙切れを覗き込む。見覚えがあると思えば、それはテスト結果だった。
「マジかよ!俺より良いじゃん!!」
 有が叫んだ。
 嶋本のテスト結果はクラスで1番、学年で22番だった。特クラだけで考えても中の上の成績だ。
「頼むぜ。あいつ、今年俺が普通クラスってことにも責任感じてんだ」
 嶋本は有からテスト結果の用紙を取り上げると立ち上がった。帰るのだろう。次いつ会えるかわからない。俺は慌てて嶋本を呼び止めた。
「嶋本!!」
「でけー声で呼ぶな」
「嶋本……」
 勢いだけで呼び止めてしまって、何を話せばいいかわからない。
「んだよ、帰るぞ」
 嶋本がまた踵を返す。
「来年は同じクラスだ!」
 有の叫びに、嶋本は手をひらひらと振って「おお」と答えた。
「そしたら、一緒に勉強が出来るし、飯も食えるな」
 俺の言葉に、嶋本はブハッと笑った。
「したことねぇみてぇに言ってんじゃねえよ」
 そして嶋本は生徒会室を出て行った。



 時は流れ2月のある日。2限目に緊急全校集会が行われた。OSTの実施と概要が発表され、集会後教室に戻ると設問とマークシートが各教室に用意されていた。
 有はようやく公約の実現に一歩近づいた。
 OSTの結果を生徒が知ることは無い。だが、OSTに基づいて、春休み中に何らかの動きがあるはずだ。
 それは、4月になればわかる。

 俺も有も、嶋本も。そう信じていた。

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