高校生 3

 

 応接スペースにねじ込まれ困ってしまった俺は、ひとまず挨拶を試みた。
「真田です。見張りをまかされました」
「うわ」
「まじで」
 とは、見知らぬ二人がもらした。嶋本には一睨みされた。
 そして、居ないものとして扱われることになったらしい。
「反省文っつったってなぁ。俺何怒られてんのかすらわかんなかったし」
 頭の両サイドに剃り込みを入れた生徒が言った。胸元の刺繍によると、この生徒は斉藤と言うらしい。
「さぼりが反省文書くようなことか? 今までさぼりで書かされたことある?」
 もう一人の、眉毛の無い生徒が言った。こっちは河野というらしい。
 河野の問いに斉藤が「ないない」と答え笑った。
「とりあえずあのクソがムカついてんのは、自分の顔に泥塗られたと思ってっからだろ」
 嶋本が言った。
「クソが泥塗られたところで見た目すら変わんねぇだろうに!」
 河野が言って、斉藤が笑った。
「じゃあ、学校の名に傷を付けてすみませんでした、で良いんじゃないか? 何したか知らないが」
 うっかり口を挟んでしまった。斉藤と河野には「あ?」と睨まれたが、意外にも嶋本は「それでいんじゃね?」と賛同した。
「あのクソが面白くないのは、自分の受け持つ生徒が3人も授業をさぼってたことが外にばれたことだろ。それを、自分の名じゃなく学校の名にすりかえて怒ったわけだ。俺たちはあいつの名なんか知ったこっちゃない。さぼりごときで反省文書くつもりも、消火活動の反省文書く気もさらさら無い。なら、学校の名に傷付けたって名目に乗っかってやろうや。で、心にもないこといっぱい書いて、あのクソをもっと怒らせよう」
「まあ、それでいいか……」
「じゃあ、ちゃちゃと書いちまおうぜ。お前、言いだしっぺなんだからもっと案出せよ」
「いや、その前に、一つ確認したい」
 嶋本がさらりと大変なことを言ったはずだ。
「お前ら、消火活動したのか?」
 聞くと、斉藤がニヤリと笑った。
「話したら反省文手伝ってくれる?」
「いいだろう」
 即答すると、嶋本がすかさず念を押してきた。「3人分だぞ。みんな同じ反省文書くわけにはいかねぇかんな」
「わかってる」
「あのクソが余計イラつくような立派な反省文だぞ」
「イラつくポイントを付くのはお前らだぞ」
「取引成立だ」
 そして3人は話し出した。
 3人は、物理の授業を学校裏の林道でサボっていた際に、近所の民家から煙が上がっているのを発見した。民家に駆け付けるとまだ火は外までは出ておらず、屋内の住人すら気づいていないようなボヤかもしれなかった。そこで煙が出ていることを知らせるべくインターホンを鳴らしたが、住人は出てこなかった。これは自分たちでどうにかするしかない。河野は消火器を取りに学校に走り、斉藤は119通報し、嶋本はどこか鍵の開いている窓や中に入れそうな箇所は無いか探した。結局鍵の開いている箇所は無かったが、河野が持ってきた消火器の一つを窓に投げつけガラスを割り、そこから屋内へ進入、消火に当たった。その後消防車が民家に到着。火事は大事には至らなかった。
 そういうことらしい。
 今日授業中に近くまで来ていた消防車はそれだったのだ。
「それで怒られたのか?」
「そ。消防隊員が学校までお礼言いに来ちゃってねぇ」
 なるほど。確かに、嶋本の担任はクソかもしれない。
「じゃあ、張り切って反省文考えようか」
「おお」
「よろしく」
 斉藤と河野は喜々として返事をしてきたが、嶋本は自力ですらすらと反省文を書き始めた。
 斉藤と河野の面倒だけ見ることにする。斉藤は少し話をすると自力で書き始めた。詰まったところで助け舟を出せば大丈夫そうだ。しかし河野はまったく書けないようで、話をしては「それを書け」と逐一指示しなくてはならない。骨が折れる。
「やーやー、やってるかね?」
 その声に顔を上げると、そこにいたのは有だった。
 三人は反射のように「ああ?」と有を睨んだ。有は少しひるんだが、隣に腰掛けてきた。
「俺も見張り。なんだか今日は先生方が忙しそうで生徒会どころじゃなくなってねー。ここ手伝えって。あ、どうぞ、続けて」
 三人はそれぞれ舌打ちしたり睨んだりしてから反省文に戻った。
 しかし、
「お前、今まで率先して生徒会参加してなかっただろ」
 最低限しなければならないことしかしていなかったはずだ。
「ちょっとね。やりたいことがあって、頑張ってんの」
 答えて、有は嶋本の反省文を覗き込んだ。
「おーおー、立派立派」
「うぜぇ」
 その後有に河野を任せると、二人は意気投合したようだった。

 

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