高校生 5
商店街は、買い物客と登校日帰りの中高生で賑わっている。
本屋は、ゲームセンターの3件先にある。ゲームセンターは特に賑わっていて、ゲームコーナーは男子生徒、クレーンゲームコーナーは男女が入り乱れ、プリクラコーナーは女子生徒と別れている。いつ見てもそんな様子でよく飽きないものだなと感心しながら見ていたら、一人の男子生徒がゲームセンターを後にした。ゲームセンターで一人とは珍しい。そう思って目で追って、気付いた。
あの髪に、あの身長は、嶋本ではないか?
慌てて追いかけて、追い付く前に確信した。あれは絶対に嶋本だ。
「嶋本!」
呼ぶと、嶋本は立ち止まり振り返った。きょろきょろして、しかし俺と目が合った瞬間にいつもの嫌そうな顔をして、踵を返した。
「嶋本!」
追いかけながらもう一度呼ぶ。しかし次は何の反応も示さない。
「嶋本、」
追い付いて、横に並んで声をかけるも、全くの無反応だ。
しかしこれまでも、良い顔をされた試しがなければ、会話が成立したこともない。だから気にすることはない。これから距離を詰めれば良い。
「話がしたいんだ」
「ついて来んな」
「嶋本」
「……」
嶋本が俺と距離を取るように歩くスピードを上げる。
「嶋本」
めげずに呼ぶ。しかし次は、睨むことすらされなかった。
いつもは、存在の認識くらいはしてくれる。今日はそれすらしてもらえない。
どうすれば良いかわからず、だけど引き下がる気にもなれなくて、俺はただ嶋本の後について歩いた。
少し歩くと、嶋本は慣れた様子で喫茶店に入って行った。
困った。お金は、参考書を買う分しか持ってきていない。
入口で立ちすくしていると、嶋本が呆れたような声を上げた。
「んなとこ突っ立ってたら邪魔だろ」
確かにその通りだ。しかし俺はお金が無い。参考書を買うべくもらったお金を、別のことに使うわけにはいかない。諦めるしかないか。
悩んでいる間に、嶋本は奥へと消えてしまった。
カウンターに立つマスターらしき人物が、俺に気付いて手招きする。
「大丈夫。今のは、来いってこと」
そう笑顔で言われた。
会釈をして中に入る。扉がカランカランと音を立てて閉った。
「すみません、手持ちがないんです」
マスターに言うと、
「友達?」
と聞かれた。マスターも会話が噛み合わない。それとも俺が悪いのだろうか。
「……いいえ」
否定の言葉を述べたのは自分なのに、友達なんて呼べる仲ではないことなんてわかりきっているのに、酷く悲しく思えた。
「クラスメイト?」
「いいえ」
俺と嶋本は、何なのだろうか。接点らしい接点すらない。
「……そ。まあ、君やんちゃはしなさそうだし。いいよ。しんちゃん、あの扉の部屋」
「……しんちゃん?」
「あーもー、どんどん時間すぎるよ!」
せかされて、俺は慌てて示された部屋へ向かった。 扉をそろりを開ける。
嶋本が、陽の当たるソファーで横になって本を広げたところだった。
「マジかよ、帰れよ」
「マスターが通してくれた」
「……あっそ」
嶋本は相変わらず嫌そうに答えて、そして本に視線を移した。
嶋本はどうしたらこちらを向いてくれるのだろうか。その答えは今だ見つけられずにいた。
「嶋本」
「……」
「話がしたい」
「……」
「嶋本」
「……うっせーなー! 読めねーだろ!」
しつこく呼んでいたら嶋本がキレた。しかしその主張であれば、俺も同じだ。
「嶋本が返事をしてくれないから話ができないんだろ」
「はああ?!」
「話がしたいんだ」
「俺は放っといてほしいんだけど」
「でも俺は話したい」
「まじ、他行けよ」
「嶋本が良いんだ」
この答えに、嶋本はいつも以上に嫌そうな顔になった。
「図書館や職員室で見かける嶋本は、噂で聞く嶋本と印象が違うから、話をしたいと思った」
言うと、嶋本は開いていた本をパンと閉じた。それと同時に扉が開いた。オーナーがジュースを持ってきてくれた。
「すみません、手持ちがないんです」
さっき会話が噛み合わなかった為もう一度言うと、それには嶋本が答えた。
「金取らねーよ。両方飲んでけ。俺は帰る」
嶋本はテーブルに置いていた4冊の本を手に取ると足早に喫茶店から出ていった。
「あー、邪魔しちゃったかな?」
オーナーさんが言った。
「……いえ」
「まあ、せっかくだし、ゆっくりしてってよ」
言いながら、オーナーはジュースを二つテーブルに置いた。
「あの、しんちゃんって……?」
入ってきたとき、オーナーは嶋本のことをそう呼んだ。思い出して聞くと、
「ああ、甥っ子なの」
と答えてくれた。背が180cm近くあり、つるりとしたスキンヘッドのため、まさか親戚とは思わなかった。
しかし気の良さそうな人だ。せっかくなので図々しく甘えることにした。
「実は、この商店街には参考書を買いに来たんです。ちょっとだけ本屋に行って、戻ってきてもいいですか?」
「いいよー。今日は予約も入ってないし。ゆっくりしてって」
俺はこの後、嶋本が横になっていたソファーで、陽の光を浴びながら勉強した。
