ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 10

 

 真田が再び一部のデータを消去してしまったことで、こまごまとしていたはずの問題が一気に大きく膨れ上がった。
 真田は、おそらく誰からでも、何からでも感情を学ぶということ。
 感情を覚える度にそれまでのデータ全てが消去されてしまっては、それだけで破棄の話が持ち上がりかねないこと。
 かと言って、感情を覚えさせない方法が皆目検討も付かないこと。
 真田に忘れられてしまった隊員が、酷く動揺すること。
 もし自分が真田隊副隊長を外された時のこと。
このロボットを破棄の道からどう遠ざけるには、どうすれば良いか。
 何より、今回、また自分のことを忘れられてしまっていたこと。 真田の残した言葉は、感情を忘れるためには必ず嶋本のことを忘れなければならないというように受け取れるが、違う。真田がその言葉を残したとき、真田は様々な感情を嶋本から学んでいた。つまり、その感情のデータと嶋本のデータが繋がっていたということだ。だからその時は、感情を忘れるためには、嶋本のことも忘れなければならなかった。
 しかし今回は、ロボットは佐々木と話をしていた最中にデータの消去を開始した。つまり、佐々木と話をしていたときに、なんらかの感情を学習したのだ。だから、佐々木のデータは消去されてもおかしくないが、嶋本のデータまで消去されていてはおかしいのだ。
「……どうでもええけど、真田さん、感情消去する度に俺ん名前呟くんかな。それは恥ずかしすぎるわ。……いや、でも、呟くんやろうなぁ。だって、呟いたんは、プログラム実行結果や……」
 メンテんついでに修正してもらお。
 思い立つと、嶋本は即座に修正依頼をした。
 今あるデータを初期値として設定してもらうこと。そうすれば、また佐々木をきっかけに感情を学習したとしても「知らない」なんて言わせずに済む。自分がきっかけになったときも「まともに話すのはこれが初めてだな」なんて言われずに済む。
 更には、こちらでデータの初期設定を更新できるようにしてもらう事。初期設定なのに更新することはおかしい気がするが、そもそも、今のバックアップを取っていないような状態が変なのだ。感情のデータだけ更新されないようにして、ログも取っておけば良い。
 そして、真田が感情のデータを消去する際に、「しまもと」と呟かせないこと。今回は佐々木だから良かったものの、これが黒岩だったら笑いものにされる。嶋本はそう危惧した。それに、真田が本当に自分のことを思い出そうとしてくれたことは今回でわかった。嶋本にはそれで十分だった。

 ロボットがメンテナンスから戻って一週間が経った。佐々木は忘れられてしまったこともあって戸惑っていたが、徐々に以前のように接することができるようになってきた。
 嶋本は、二人の様子をマジマジと見てしまっていたことに気付き、慌てて視線をそらした。しかし一歩遅かった。二人の会話はすぐに終了し、ロボットは嶋本のもとへ来ると、こう言った。
「どうした」
 嶋本は、またか、と天を仰ぎそうになったが、平生を装って答えた。
「どうもしませんよ」
 すると、ロボットは「そうか、」と言った。嶋本は続きを待たずに口を開いた。
「こっちを見ていて笑顔になったから、どうかしたのかと思った」
 その声は綺麗にロボットの声と重なった。ロボットの表情が驚きへと変化するのを確認すると、嶋本はニヤリと笑って得意げに言った。
「俺、起動中の隊長のことやったら誰よりもわかりますから。わからへんことあったら聞いてくださいね」
「わかった」
「あ、あかんわ。わからへんことなんですけどね、」
 言って嶋本は紙とペンを取り出し、真田を正面に座らせた。話しながら長方形を書く。以前した説明を、同じようにフローチャート図を書きながら行った。

 

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