ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 9

 

 何が原因かは分からないが、真田の中の一部のデータが消去されてしまった。
 それだけの説明で、佐々木以外の者が今回のことを納得できたのは、以前にも同じことがあったからだ。メンテナンスに出されたことも、同じ理由で佐々木以外の者は受け入れられている。
「ええ加減にせえよ。お前だけやで、しつこいの」
 佐々木は、わざわざ人気の無い場所を選んで嶋本に話しかけた。
「でも、納得できないっす」
「なんでやねん」
「本当は嶋本さん、原因分かってるんじゃないすか」
「はあ?」
 図星だった。しかし、嶋本がそれで慌てることはなかった。その原因なら、もう半年以上も隠し続けている。今更うろたえたりしない。
「隊長、フリーズする直前、嶋本さんを呼んだっす」
「は? まさか。やったら俺気付くやろう」
「すごく、小さな声だったっす。つぶやく様な……」
「それで?」
「それまでしていた話は、嶋本さんとは何の関係も無いものでした」
「それで?」
「……それだけっすけど……」
 強気な嶋本に、佐々木は途端に自信を失くしたようだった。視線が泳いでいる。
「俺はその時、隊長と話してへんかってんで? 隊長が俺を呼んだのが事実やとして、なんで俺にその理由わかるん?」
 佐々木に答えられるはずがなかった。
 嶋本は内心ほっと胸をなでおろして、言葉をかけた。
「原因はわからへんねんから。俺のせいではないし、お前のせいでもない。それに、大事なデータが消去されてしまったわけでもない。誰も、何も気にする必要はない。それじゃあかんか?」
「……」
 嶋本は沈黙を良しと受け取って、話を終わらせた。
 佐々木の姿が見えなくなるのを確認してから、嶋本はぼりぼりと頭をかいた。
 胸ポケットから、一枚の紙を取り出す。
 何度も濡らしてしまって、書かれていることはほとんど読めなくなってしまっているが、嶋本はそれを、覚える程何度も読み返していた。
 以前、真田がデータを消去してメンテナンスに出した際に発見された、秘密のデータだ。


嶋本の涙を見て、感情が必要ない理由がわかった。感情が救助の妨げになることも理解していたつもりだったが、結局は「つもり」だったようだ。
もし、今回自分と嶋本の立場が逆だったらと考えたら、恐ろしくなった。嶋本がいないなんて、考えられない。すぐにでも救助に向かってしまっただろう。
そして、自分のために嶋本をなくすところだったこともわかって、また恐ろしくなった。
嶋本は人間だから、精神面はいくらでも鍛えられるだろう。だからもう心配はいらないだろうが、やはり、心配をかけるのはいただけない。
だから、感情も、心も、嶋本のことも忘れて、ただのレスキューロボに戻ることにする。嶋本のことは忘れたくないが、嶋本を忘れないことには、感情も心も忘れきれない。だから嶋本のことも忘れる。
でもやっぱりどうにかして嶋本のことを覚えておきたい。
だからこのデータを、また感情や心が生まれてしまったときに、それらを忘れるスイッチにするという口実で残しておく。そうすれば、心や感情が生まれるたびに嶋本を想えるし、嶋本に感謝できる。
本当は感謝なら口で述べても良かったんだ。でも嶋本は賢いくせになんだかんだ言って優しいだろう? 感謝を述べようものなら、しようとしていることを察して止めるに違いないから。
俺は、大切な人をなくしかねない事態になんて、二度と遭いたくないよ。

ありがとう嶋本。嶋本がいたから人間らしくなれた。嶋本に会えて良かった。


 必死に押し殺していた真田への想いが、膨れ上がる。
「真田さん、ほんまに、思い出してくれたんや……」
 溢れる涙を、嶋本は止めることができなかった。紙ごと手で顔を覆い、その場に座り込む。
 こうなってしまっては仕方が無い。少しだけ、と決めて、嶋本は自分に素直になることにした。

 ねえ、真田さん。
 プシャンのこと、ほんまはシマって呼んどったんでしょう? 理由わからへん言うとったけど、黒岩さんの話で確信しましたわ。俺とプシャン、似とったんですね。そんで、それで俺に興味持ってくれたん、めっちゃ嬉しい。新隊編成で俺指名してくれたんも、めっちゃ嬉しい。
 俺んこと好き言うてくれた時も、ほんまはめっちゃ嬉しかったんですよ。でも、辛くあたることしかできひんかった。そうすることでしか、真田さんを守ることできひんかった。自分を守ることできひんかった。
 ……俺、昔も今も、真田さんを守る方法探しとる。破棄にだけは、絶対させへんから、それだけ、信じとって。
 ほんまは、見捨てることが前提ってのもどうにかしたいけど……。それが真田さんの存在意義やし、真田さんは、俺が真田さんを見捨てられるって、信じてくれとるんやんな。やから、指示通り感情忘れてくれたんやんな。俺ごと忘れて、でも、後から思い出せるようにしとくとか、どんだけわがままなんですか。そんなん、俺、真田さんの意思汲むしかないですやん。
 真田隊副隊長としての義務、全うするしかないですやん。酷い人や。
 でも、真田さん。
 ほんまに俺んこと思い出してくれて、ありがとう。めっちゃ嬉しい。
 ほんまに、ありがとう。
 

 嶋本は袖で顔をぬぐうと、勢いよく立ち上がった。
「っし! 問題は山積みやで〜」
 声を出して気合を入れる。
 握り締めていた紙をもう一度読み返してから胸ポケットにしまい、仕事に戻った。

 

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