ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 8

 

 奥日光での訓練を終え、基地へと戻るバンの中で、佐々木が「隊長? 隊長!?」と一人うろたえだした。
 フリーズでもしたのだろう、と助手席にいた嶋本は後ろを振り返った。真田は一点を見つめたまま、動かない。
「高嶺、ちょお、止めて。小鉄、平気やから。場所代われ」
 真田がフリーズしたりオチたりというのは、この隊になってから初めてのことだった。佐々木がうろたえるのも無理は無い。場所を代わってからも、佐々木は様子を伺っていた。
 嶋本はまず、真田の頭に耳を近づけた。それから、首下に手を当てた。
「フリーズしとるだけや」
 ということにして、嶋本は今の状況を打開することにした。
「フリーズて、大丈夫なんすか?」
「うん。大丈夫やから、しばらく黙っとれ」
 睨みを効かせてそう言えば、佐々木はしぶしぶと前を向いた。
 真田は体温が高く、カリカリカリ……と、何かを頑張っている音も聞こえてきた。これは、オチたわけでも、フリーズしたわけでもなく、処理が追いついていないだけだ。
 そんな、重い処理が走るなんて。
 嶋本は、真田がフリーズする前の様子を思い返してみたが、気になる点は何も無かった。佐々木と何やら話をしていただけだ。それとも、訓練で無理をしたツケが、今、回ってきたのだろうか。
 何はともあれ、処理が終わるのを待つしかなかった。
 そして、処理が終わったのは、基地を目前にした頃だった。
「嶋本?」
 真田が口を開いた。
「ああ、隊長。ずいぶん大変な処理をしてましたね。何をしたんです?」
「処理? 特に何もしていないぞ」
「いやいやいや、一時間以上時間かかっといて、何もしてないはずないですやん」
「いや、本当に何もしていない」
 嶋本はわけがわからなくなった。この一時間、真田は確かに何か処理をしていた。そのログが残っていないなんて、有り得ないはずだ。
 考え込んだ嶋本に、真田は構わずに話しかけた。
「話すのはこれが初めてだな、嶋本」
 その言葉に、皆が耳を疑った。佐々木は体ごと振り返り、高嶺も、ルームミラー越しに様子を伺っている。
 嶋本は、差し出された右手をとった。
「……。体温は、三六度五分……ですよね」
 真田はもちろん、「よくわかったな」と言って、変わらぬ笑顔を見せた。
 基地に着くまでの短い時間が、真田以外には永遠のように長く思えた。

 基地に着くなり、嶋本は真田と佐々木を呼んで、他の者は片付けにあたらせた。
「隊長、こいつんこと、わかります?」
 嶋本はおもむろに聞いた。佐々木はわけがわからないようで、ただ、不安そうな顔で真田を見つめた。
「佐々木……か」
 真田のその言葉を聞いて、佐々木は安堵したようだったが、それは次の瞬間にあっけなく崩された。
「知らないな」
 佐々木の名は、隊服で確認したのだろう。
「うちの新人ですよ。隊編成変わってますから、後で確認しておいてくださいね」
「わかった」
 真田はうなずくと、佐々木に右手を差し出した。
「真田甚だ、よろしく」
 しかし佐々木がその手を取れるはずが無かった。佐々木は嶋本に問い詰めようとしたが、「ええから、」と一蹴された。「自己紹介して、握手する」
 佐々木はしぶしぶと「佐々木、小鉄っす」とだけ言った。嶋本はその様子を満足げに見て、あくまで明るく真田に話しかけた。
「こいつ、北海道出身なんすよ。北の海で役に立ちます」
「そうか。すばらしいな」
 佐々木はめげずに問い詰めようとしたが、嶋本が先に命令を下した。
「ほな、俺らちょっと基地長んとこ行くから、お前は片付け手伝っとけ」
 そして、一礼してバンへと駆ける佐々木にフォローを入れることを、嶋本は忘れなかった。
「お前、タイミング悪かっただけやから! 何も気にすることないで!! 皆にも、何も気にするな言うとけ!」

 

ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 9>>

<< ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 7