ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 11

 

「嶋本! 今日は飲み会だ!」
 羽田での訓練を終えた黒岩がわざわざ防災基地まで赴いて、言った。
「わざわざ言いに来てくれんでも、連絡くれたら行きますよ」
「それがそうはいかねぇんだ!」
「はあ?」
「今日はお前主賓だからな!」
「……主賓?」
「誕生日だろう? 祝ってやるっつってんだ」
「誕生日て」
 嶋本は笑った。
「今更祝ってもらうような年齢でもないですよ」
 しかし誕生日という情報に周りが盛り上がった。
「誕生日ですか! 何歳になったんですか?」
「あー、それ俺も気になる! 嶋本さん、若く見えますもんねぇ」
 童顔、それから身長は、本人が一番気にしているところである。嶋本は普段なら避けるところを、あえて聞いてみることにした。
「ほお。どんくらいに見える?」
 すると隊員達は口々に答えた。
「二八?」
「二六?」
「いや、二三とかでもいけるでしょ」
「いっそ、十代でもいけるよな」
「十代ってお前、特救副隊長だぜ? それは流石にないだろ」
「あー、わかった! 今日が二十歳の誕生日!」
「やっと酒が飲める!」
「やっと煙草吸える!!」
 そう言ってゲラゲラと笑う隊員達に、嶋本はいつもの笑顔を向けた。
「二十歳か。せやなぁ、十六進数なら確かに二十歳や。でも十六進数やないらしいな。どいつからどつかれたい?」
 握り拳を前に出して見せれば、隊員達は笑ったまま逃げ出した。
「ったく。失礼な奴らや」
 ため息をついて、嶋本は逃げ出した隊員達の背中を眺める。そこへ、真田が声をかけた。
「十六進数で二十歳か」
「あ、はい」
「誕生日、おめでとう」
「いやぁ、ありがとうございます。歳取るのんは嬉しないですけどね」
「そう言えばお前、誕生日はあるのか?」
 黒岩が聞いた。
「ないな」
 真田の返事は簡潔だった。
「そしたら、要救助者とかに誕生日聞かれたらどないするんですか?」
「そんな時は、四月一日と答えるようになっている」
 エイプリルフール。
「あれ。黒岩さん、ロボ、企画から関わってるんじゃなかったんですっけ? 知らなかったんですか?」
「俺が特救入った頃にはもう開発が大分進んでたよ。副隊長になるにあたって企画書とマニュアルを渡されたが、あんなの全部に目を通せるはずがねぇよ。どんくらいあったと思う?」
 その問いに嶋本は指で五センチメートル程の幅を作り、言った。
「こんなファイル、棚一つ……。いや、棚一つで収まんのかな」
 莫大な量であることだけは想像できる。
「開発サイドから、印刷の手間省くのとペーパーレスだって言われて、ダンボール何箱分かのフロッピーディスクよこされたよ」
「ぅーわー……、ですよね。だって俺、用件定義書とマニュアル読むだけでめげそうになりましたもん」
「まあ、そのどっちにも誕生日のことは書かれていないから、開発者が気を利かせてくれたんだろう。企画書のどこかには書いてるんだろうな」
「いや、気を利かせるとかそんなんじゃないですよ」
 嶋本は言った。
「俺、友達にSEいるんですけど、聞いたことありますもん。プログラマーの頃よくしょうもないことしたって」
「しょうもない?」
「ええ。例えば、『ユーザー、絶対こんな操作せぇへんわ!』っていう操作が行われたときに、そのシステムに変な動きをさせるんです。もちろんシステム自体にも、ユーザーや会社にも害はないけど、たまたまそれをしてしまった人は『え、何これ?』ってなるような機能……機能やないな。なんかそんなしょうもないもんを勝手に付けたりして遊ぶらしいですわ。で、たまーに後から『なんか変なん出るんで直してください』って怒りの電話がかかってきたら、『ちっ、バレたか』って」
「それは、しょうもないな」
「でしょ? これもきっとその類ですよ。じゃなきゃエイプリルフールなんて選びません。ほんまに気ぃ利かせてくれたんやったら、もっと適当な日付を選んで、内容をマニュアルに載せるし、機能追加分の金額請求されてます。……ていうか、誕生日設定したらええだけの話ですやん。そんなんこっちで勝手にできますよね」
「そう言やそうだな」
「ほな、どうします?」
 嶋本は真田に聞いた。
「どう、とは?」
「誕生日、真田さんの。いつにします?」
 その言葉に、真田は酷く驚いたような顔をした。
「誕生日は、その人が生まれた日を差すんだろう? そもそも俺はロボットだ」
「わかってますよ。でも、そんなことどうでも良いじゃないですか」
「そうなのか?」
 その問いには黒岩が答えた。
「そうだな。この際だから決めちまえば良いんじゃないか!」
 真田はやはり驚いたような顔をしていたが、どこか、嬉しそうに言った。
「そうか。いつがいいかな」
 考え込んだ真田に、黒岩が聞いた。
「お前、完成した日はいつだ?」
「完成……」
 そしてやはり真田が考え込んだので、嶋本が答えた。
「明確な日はわからんでしょ? てか、完成の定義によりますよね。とりあえずテストの段階とは言え動くようになった日か、納入された日か。納入された日にしたら、それ以前からあるデータはなんやねんってことになるし、データ云々言っとったら、データベースになんて開発の段階から何かしらデータ入れられとるやろうから大分前からデータあるやろうし」
「なんだ、面倒臭ぇな」
 言って黒岩は顔を歪ませたが、すぐにいつもの顔に戻った。
「生まれた日だ!」
「はあ?」
 黒岩は、嶋本のその声を無視して続けた。
「初めて、ロボットを作れば良いと考えられた日、それがお前の生まれた日だ!」
「なるほど」
 真田は頷いたが、嶋本はやはり「はあ?」と声をあげた。
「それは正しいと思いますよ。でも、初めてそう考えた人は誰ですか。その人は、ロボットを思いついた日を覚えてんですか? 絶対覚えてないですよ」
「っんだよ、面倒臭ぇなお前はよう!!」
「なんで俺なんですか! 事実じゃないですか!」
「じゃあもう、真田に決めさせればいいんじゃないか?」
「だから俺最初からそう言ってますやん」
「なんだ? 今日のお前は! ああ言えばこう言う!」
「そうさせてるのは黒岩さんやないですか!」
「ああもう! 面倒臭え! 今日で良いんじゃねえか、今日で!」
「はあ?」
 嶋本は呆れた声を上げた。しかし、
「そうだな」
 真田が答えた。
「うん。今日が良いな」
「はあ??」
「なんだ嶋本、駄目なのか」
「いや、駄目と言いますか、微妙と言いますか。……だってほら、今日俺、誕生日やし」
「だからだ」
 真田は言った。
「だから、今日が良い」
 笑顔で言う真田に、嶋本は他の日にしろとは言えなかった。
 嶋本はひとつ息を付くと、「ほな、行きましょか!」と言った。
「今日は、俺の誕生日を祝ってくれるんでしたよね?」
 嶋本は黒岩に聞いた。
「ほんなら、真田さんの誕生日も祝いますよね? 行きましょう、真田さん! 俺ら主賓ですから、多少のわがまま許されますよ!」
 その言葉に、黒岩の表情が引きつったが、すぐに戻った。誕生日の部下二人に格好悪い姿を見せられるはずがない。
「そうだ! 今日はお前らの誕生祝だ!」

「俺達の誕生日、か」
 真田はくすぐったそうに呟いた。


 

ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 12 >>

<< ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 10