ロボと心と愛のカタチ 特救編後編14
何かがうまくいけば、どこかが狂う。
嶋本は、ロボットの下で働くようになってから、いろいろなことを、そう、諦めるようになってしまった。
全てが一筋縄ではいかないことを、わかっているつもりではいる。わかっていたつもりである。
しかし、こんなにも物事がスムーズに進まない事は、初めてだった。副ではあるが、人の上に立っているのだ。そう考えれば受け入れられない事もないが、直属の上司がロボットなのだ。それが要因であることは大きいと、嶋本は思う。
「こーてーつ!」
最近佐々木の様子がおかしい。厳密には、佐々木は初めから隊長がロボットであることに違和感を覚えていたから、様子はずっとおかしいと言えなくもないが、最近は更におかしい。
当直の夜、嶋本は暇を見計らって佐々木に話しかけた。
「なんなん?」
「……は?」
「お前は、俺んことが好きなん? 隊長んことが好きなん??」
「は? ……え? はい??」
嶋本は、暗に、見すぎだ、と言うことを伝えたかったが、唐突過ぎたことと、更には相手が佐々木であることが手伝って、話はうまく進まなかった。嶋本は、はあ、とひとつ息をついて、おもんないな、と呟いた。
「ほんまにお前はおもんない」
「……はあ。すいません」
「ったく。……お前、見過ぎやねん。言いたいことあるなら言えや」
「……いや」
「わかってんねんぞ。お前、様子おかしなったの、隊長の存在意義知ってからやろ。なんやねん? こっちも見られて気分良くはないねん。何か気になっとんのやろ? なんや?」
すると佐々木の表情が驚きへと変化した。図星だったのだろう。しかし佐々木はうつむいて答えなかった。
そんな佐々木に、嶋本は再び大きなため息をついた。この不器用な部下は、どうすれば素直になるのだろう。
「……あの報告書見て、お前、こんなことあってええんかって言ったやんか。あれ、俺嬉しかってんで」
その嶋本の言葉に、佐々木は顔を上げた。ただただ驚きの表情をぶら下げて、続きを待っているようだ。嶋本はそれを確認すると、ゆっくりと、続けた。
「お前が隊長を認めたのは、普段の様子見とってわかっとった。けど、そこまでとは思っとらんかってん。一隊員として、仲間として、見てくれとるんやな、隊長を。意外やったわ」
「いや……」
「でもな、隊長は、ロボットやねん」
「……」
「命を救うために、唯一、犠牲にする事を許された、貴重な、大事な、存在や。ヒトの形しとるし、うっかり仲間やと思ってまうかもしれんけど、それじゃあかんねん。仲間やと思ってしまったら、情が移るやろ? それはあかんねん。隊長は、あくまでも機材のひとつや」
この言葉に、佐々木はわずかに下唇をかみしめ、視線をそらした。そのまま何も言おうとしない佐々木を、嶋本はおもむろに覗き込んだ。
「小鉄?」
するとようやく、佐々木は口を開いた。
「……らするんす」
「ん?」
「イライラするんす。隊長と話をする嶋本さん見てると」
「はあ?」
思わず漏れたこの嶋本の言葉に含まれていたのは、苛立ちではなく困惑だ。しかし佐々木は相当勇気を振り絞っているのだろう。両手をぐっと握り締めて、下がった視線はそのまま戻らない。それでも、ぽつり、ぽつりと、続けた。
「隊長がロボットだということを忘れるなと言われて、最初はそれが理解できなかったから、イライラするのかと思ってました。皆がロボットの下で抵抗なく働いてることも理解できませんでしたし……」
「ああ。で?」
「……しばらくして、隊長にはそれなりのスキルと経験があることがわかって、隊長がロボットなのは、どうでも良いことなんだと思いました。でも、嶋本さんは、隊長がロボットであることにこだわってる。……俺には隊長がロボットであることを忘れるなと言った癖に、誰よりも親しげに隊長と話す。……会話聞いてたら、節々に隊長をロボット扱いするセリフがありましたけど、まるで、自分に言い聞かせてるようでした」
「そうか? 気のせいやろ」
「……はい。データの一部が消えて、隊長が俺と嶋本さんのこと忘れた時、俺正直、嶋本さんの落ち着き方に驚いたんす。それで、自分の考えすぎかと、一度は思いました」
「……」
「でも、勉強会の時の様子を目の当たりにして、やっぱり、イラッとしたんです……」
苛つきの経緯は、嶋本の聞きたい事ではない。もう少し続きそうだったが、嶋本はため息で遮った。
「……長い。結局何が言いたいねん」
その言葉に、佐々木はゆっくりと顔を上げた。何か、意を決したような面持ちだ。
「本当は嶋本さんが一番、隊長がロボットであることを忘れてしまうんじゃないですか」
確信をついた質問に、嶋本は慌てる事はなかった。
「……つまり、俺の言動が矛盾してる気がしてイライラしとったんか」
「はい」
佐々木はきっぱりと返事をした。
その様子に嶋本は、どうしたものかと頭をかいた。
