ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 15
「俺な、隊長と仲ええ自覚はあんねん」
嶋本のその言葉に、佐々木はあからさまに眉根を寄せた。
「いや、仲ええ、は語弊があるかな。……んー、俺、隊長のバディやし、副隊長やから、皆以上に隊長をわかっとかなあかんし、隊長に信頼されとかなあかん。……ここまではわかるな?」
「はあ……」
「うん。やから俺、隊長に対して、大分頑張って働きかけとんねん。相手はロボやから、ニンゲンと同じようにはいかへんしな」
「……」
「そんだけの話やで」
「は?」
「俺、隊長がロボやってこと、忘れた事ないで」
「でも……!!」
「お前は、しつっこいなー」
「……」
「ほんなら、あの真田さんが隊長に昇格ってなった時、ロボットやからって一番反対しとったのが俺やとしたら?」
当時、特殊救難隊員三五人全員が、ロボットの昇格に異を唱えた。今ではバディとして当たり前になっている嶋本さえ、異を唱えた。その理由は、至って簡単。ロボットの下で働くことの不安が拭えないからだ。
ロボットが隊長に昇格するということは、ロボット自ら判断をし、ロボットが指示を出すということ。ロボットに指示を仰ぐ場面が出てくるということ。それなのに、人の手で作られ、結局は人の命令なしに動けないロボットに、それを任せられるかと考えたとき、不安がない者など一人もいなかった。信頼できないのに、命をあずけるなんて考えられなかった。そんな三五人を諭したのは、昇格の提案者でもある基地長だった。
「レスキューの知識も、細かな計算も、運動能力も。あいつはお前等より優れているぞ。だから今までも隊員として一緒にやれてきたんじゃないのか。信頼してるから、一緒に現場に行けたんじゃないのか? それを今更、信頼できないとはどういうことだ。隊長職は無理とは、どういうことだ」
信頼。その言葉を出されてしまっては、皆何も言えない。機械を信頼しろという方が無理なのだ、とは言いたいが、それを論理的に言える者がいなかった。
ただ一人、嶋本を除いては。
「たかがロボットに、人間のような発想はできひんでしょう? 現場では何が起こるかわからへんのに、前もって組まれただけのプログラムでしか動かへんロボットに判断をゆだねるなんて、俺には恐ろしくてできません。プログラムでは判断できんことだってあるはずです。これから先、そういう状況は必ず出てきます。それがわかってて、ロボットの下でなんて、俺は働けません!」
すると、隊員達はざわめいた。その通りだ。嶋本の言う通りだ!
しかし基地長はピシャリと言い放った。それがどうした? 何の問題がある? と。
「それはお前達にも言えることじゃないのか? 人間にも言えることじゃないのか? 不安だから、信頼できない? お前等はその不安を、信頼で補っているんじゃないのか。支えあって今までやってきたんじゃないのか? あいつに不足があるのなら、お前等が補えばいい。それだけじゃないのか? 今までもそうやってきたんじゃないのか?」
次こそは、皆何も言えなくなった。しかしまだ納得のできない嶋本は、若さも手伝って、基地長に食らいついた。
「だとしても! ロボットが昇格する理由がわかりません!! そりゃ今までロボットが出動して救えなかった要救助者はいませんよ? でもそれは、判断下したのロボットやないし、たまたまかもしれんやないですか! ここで敢えてロボットを昇格させる理由は、何ですか!」
するとまた隊員達がざわついた。基地長は、ゆっくりと言った。
「私は特救隊を腐らせるつもりはないよ」
隊員達は真意を測りかねて、次の言葉を待つ。嶋本は半ば睨むようにして次の言葉を待った。
「いみじくもお前達は言ったね。人の手で作られ、結局は人の命令なしには動けないロボット、と。たかがロボット、と。でもお前達は、そんなロボットよりあらゆる面で劣っている。そんなロボットが居なければ乗り越えられなかった海難が、数多くある。それが事実だ。それなのになぜ、あいつがいつまでも下っ端である必要がある?」
「命令が無かったら動かれへんのに、劣るもなんもない!」
そう叫んだ嶋本に、基地長は静かに問うた。
「そこまで言うなら嶋本。隊長をやるか?」
嶋本はその問いには答えられず、チッと舌打ちした。
基地長は隊員達に向き直り、再び口を開いた。
「真田を機械だと思って扱い、真田の功績を自分のものと勘違いされてたんじゃあ、特救隊の質は落ちるばかりだよ。悔しかったら精進しろ。気に入らないなら真田を越えろ。本より特救隊は、進化し続けなければならないものだ」
「俺、あん時基地長に言った事、今でもそんまま思ってる。そりゃ、仕事ぶりを見てきて、不安は大分小さなってるけど、決してなくなる事はない。だって、隊長はやっぱり、ただのロボットや」
「……」
「俺は誰よりも隊長をロボやとわかってる。隊長はロボやと、常に意識してる。隊長がロボやってこと、俺が忘れるはずがない」
まっすぐ目を見て言い切った嶋本に、佐々木は言葉を返す事が出来なかった。
