ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 16

 

 一年が経っていた。嶋本が、自分の感情を押し殺すようになってから、一年が経っていた。騙し騙し自分を納得させるようになってから、一年が経っていた。
 その間、特に誰からも何も言われなかったから、まさか、佐々木に見透かされるとは思いもしなかった。
 平生でいられただろうか。
 発言に矛盾はなかっただろうか。
 黙り込んだ佐々木に、嶋本は何も言わずにその場を離れた。一刻も早く、話を終わらせたかった。その場を離れたかった。
嶋本は基地を出たところで、へなへなと座り込んだ。
「はあぁ〜……」
 焦った。
 その言葉は、胸の内にしまっておく。
 しかし、思い返せば思い返すほど、説明に無理があるように思える。
 真田の隊長昇進時の話は、本当のことだ。しかし、それとこれとは話が違う。相当焦っとったんやな、と考えて、嶋本はまた、ため息をついた。
「こんな所にいた」
 頭上から聞こえてきた声に、嶋本は酷く驚いた。真田だ。慌てて立ち上がると、嶋本は姿勢を正した。
「すいません、何か用ですか」
「ああ。仮眠はどうする」
「ああ……。俺は、ここで風に当たっときたいです」
「そうか」
 すると、真田は一歩基地を出て、そこへ腰を下ろした。そして誘うように、嶋本を仰ぎ見た。
 真田は今回の焦りの原因だ。わざわざ一緒にいたくはなかったが、見上げてきた表情があまりに無防備で、嶋本はつい、隣に腰掛けてしまった。
 だから、腰掛けてすぐに、頭を片手で抱え込んでしまった。
 しかし真田はまっすぐに夜空を見ていて、そんな嶋本にはまるで気付かないようだ。
 沈黙が生じた。
 基地内の人の気配を、やけに強く感じる。
 車の音が、やけに大きく感じる。
 静かな、静かな夜だ。
 風が吹いた。
 木々が、さらさらと揺れた。
「いい風だな」
 真田が言った。
「いやいや。めっちゃ寒いっすよ」
 嶋本は笑いを堪えて、でも堪えきれずに言った。嶋本は、ロボットにそんな感慨などないとわかっているから、真田が適当に言った事がすぐにわかった。
「三月の真夜中に、何言うとんすか」
 嶋本は、体操座りになって膝に顔をうずめ言った。
 そしてまた、沈黙が生じた。
 少しして、また、風が吹いた。
 それを合図に、また真田が口を開いた。
「わからなくて良いことなのか」
「はい?」
「ヒトは、風が吹けば、良い風だと言ったり、言わなかったりする。満月を見れば、綺麗な月だと言う。そういうことを、俺はわからなくて良いのか。そんな感想を、俺は言えなくて良いのか」
「必要ないです」
「そうか……」
 そしてまた、沈黙が生じた。
 風が吹いて、次に口を開いたのは嶋本だった。
「言えるに越した事はないんでしょうけどね」
「うん」
 真田はまっすぐ夜空に顔をむけたままうなずいた。
「レスキューに、関係ないですやん」
「そうなのか?」
「そうなんです。いや、まあ、リペ降に支障をきたす風かどうかはわかってもらわなあきませんけど、」
「それはわかる」
「でしょ?」
「ああ」
「ええんですよ。それで。……隊長は、それがええんです」
 空気がふわりと動いた。真田が、嶋本の方へ向き直った。その気配に、嶋本も真田の方を見た。
「それがいい、のか?」
 真田は少し驚いたような顔をしていた。「それでいい、ではなくて?」
「ええ。それがいいんです。そして都合の良いことに、感慨の類は個人差がありますから、プログラムできないんです。良かったですね」
 にっこりと、嶋本は笑って見せた。
 すると真田も、ふわりと笑顔になった。そして二人は、夜空を向いた。
「そうか」
「ええ」
 沈黙が生じた。心地良い沈黙だ。
 ひゅるり、風が吹いた。
 真田が口を開いた。
「嶋本が副隊長で良かった」
「……」
「次も、副隊長をやってくれるか」
「喜んで」
 言って、嶋本はまた膝に顔を埋めた。
 
 静かな、静かな、夜だ。
 
 耳を近づけるまでもなく、カリカリカリと、音が聞こえてきた。  

 

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