ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 17
状況を聞く限り、現場に到着するまでに何も方法が思いつかなかった。
現場に到着して、唖然となった。
予想以上に酷い有様だった。
誰もが途方に暮れるところだった。
真田がある提案をした。
それしかない、と、即座に実行に移した。
結果、救助は成功した。
「隊長、よくあんな方法思いつきましたね」
嶋本は、機材を片付ける真田の隣に並んだ。
「ああ、過去の海難で勉強していたおかげだ」
「ええ〜。俺は全然思い付かへんかったのに。……ぁあー、なんや悔しい!」
「ハハハ」
――あ、笑った。
真田が声を出して笑うのは珍しい。嶋本はそれに気を取られそうになったが、ふと、気が付いた。
「ん? 勉強したのが、役に立ったんですね?」
「ああ」
「そう言えば、初めての勉強会の時は、逆でしたね」
「逆?」
「この指示は今の俺には出せない、って」
「ああ。あれは悔しかった。だが、そのおかげで今日を乗り越えられた」
「ええ……」
創造力――新しいモノを生み出す力。嶋本はその言葉を思い出していた。
創造力を身に付けるには、まず、多くの知識を身に付けること。その知識を反芻して、私生活に役立てること。ささいなアイデアも逃さないこと。そしてそれを、実行すること。
勉強会で、過去の海難を学び、それを基に他の海難を勉強している。そして今日、それが実を結び、救助方法を思いついた。救助することができた。これは、創造力を身に付ける方法をそのままなぞらえているではないか。
それだけではない。「この指示は今の俺には出せない」と言うことは、真田には、このロボットには、もともと創造力――新しいモノを生み出す力があると言うことになる。
しかし、新たなプログラムを生成するプログラムは、少なくともこのロボットには組み込まれていないはずだ。
どういうことだ。
「ありがとう」
「へ?」
すっかり会話がおろそかになっていた嶋本に、思いもよらない言葉が降ってきた。慌てて顔を上げれば、真田は穏やかな表情をしていた。初めて見る表情だ。
「あの時に悔しい思いをしたおかげで、今日悔しい思いをせずに済んだ」
「いやいやそんな。隊長の努力の成果ですよ」
「いや、嶋本が教えてくれたんだ。その悔しさを忘れるな、と。だから、ありがとう」
「……こちらこそ。隊長がおらんかったら、今日の海難は手も足も出えへんかった。ありがとうございます」
「うん」
その後手早く機材を片付けると、嶋本は一足先に更衣室へと駆け込んだ。
ロボットに、プログラムの生成能力は、ない。
しかし、新しいモノを生み出す力――創造力は、ある。
矛盾している。
どちらが正しい?
何が正しい?
嶋本はずっと考えていた。やりたいことがあるから、と、仮眠も最後にし、一人、パソコンに向かうふりをして考えている。
プログラムの生成能力があるロボット。これは、人間にとって脅威でしかない。それは、「欲」が生成されてしまった場合、それに伴うプログラムが生成されてしまったら、人間の手には負えない可能性があるからだ。
そのためにも、下手に感情を学習させてはいけない。だから感情は、学習してしまったらその感情に関するデータを自動的に消去するようプログラムされている。
理由は違えど、真田自らそうプログラムした。
――そもそもこん時、新たなプログラムを生成するプログラムの存在を、疑うべきやったんや……!
そして、かつてこんな会話をしたことを思い出した。
『……それは、新たなプログラムが生成されたと言うことですか?』
『厳密には違うが、似たようなものだ。もともと俺はイレギュラーに対応すべく開発されているから、新たな命令を生成することはプログラムされている』
ある一つの事に関して、新しい命令が複数個生成されたとしたら、それはもう、立派な「新しいプログラム」だ。
しかしこれは、想像でしかない。真田に、プログラムの生成能力があると、言い切る事はできない。
だが、創造力は、ある。
――いや、創造力がある言うんも、想像でしかない。
では、どういうことか。
ロボットに、プログラムの生成能力がある可能性があるということ。新しいモノを生み出す力がある可能性があるということ。
つまり、人間の脅威になる可能性を、否定できないということ。
破棄、や――
翌日嶋本は、基地長室へと足を運んだ。
