ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 18

 

 破棄、や――

 翌朝嶋本は、基地長室へと足を運んだ。
「憶測でしかないからね、破棄はできない。しかし、人間に脅威がある可能性があるのでは本末転倒だ。これからの様子を見て考慮しよう」
 基地長の出した答えはこうだった。
 嶋本は深く一礼すると、基地長室を後にした。

「お疲れ様でーす……」
 全ての引継ぎが終了すると、嶋本はそそくさと更衣室へと引き上げた。いつもなら誰かしらと少し世間話をするが、今日はその気力がなかった。
 本当に疲れていた。
「どうしたんだ? 嶋本のやつ」
 黒岩は近場にいた隊員に聞いた。しかしそれはロボットで、聞き返されるはめになった。
「嶋本に何か異変がありましたか?」
「いや……。気のせいかな」
 本人に聞くしかないか。黒岩は近いうちに飲みにでも誘おうと決めて、業務に当たった。

 嶋本は家に着くなり、ばったりとベッドに倒れこんだ。なぜだろう、酷く疲れていた。目覚ましを十二時にセットすると、あっと言う間に眠りについた。
 二時間ほどの睡眠では、疲れは取れるはずがない。それでも嶋本が起き出したのは、生活リズムを崩さないためだ。夜眠れるように、明日気持ちよく起きれるように。
 それなのに、夜十二時前にベッドに入ってから、変な時間に目が覚めた。
「何時や……」
 時計は三時四五分を指していた。もう一眠りできる時間だが、なんだかそわそわして眠れそうになかった。
 嶋本は電気を付け、テレビをつけた。一通りチャンネルを回すも、大半は放送自体されておらず、気になるものはなかった。嶋本はリモコンを放ると、ベランダに出た。
 しんと静まった真夜中の気配。当直で何度も感じているはずなのに、どこか違う気がするのは、きっと自分がそわそわしているからだ。そう決定したところで、ピロリン、ピロリン、高い音が聞こえてきた。
 ニュース速報だ。嶋本は反射的にテレビへと駆けつけた。アルジェリアで、大規模な地震が起きたという。
 アルジェリアってどこや。アフリカの方やんな。大規模ってどんなもんなんやろ。
 それから嶋本は、出勤までの時間でチャンネルを変えつつ可能な限りのニュース番組を見た。
 死者九五名以上、負傷者三五○名以上。この数字だけを頭に、いざ出勤してみれば、着くなり基地長に捕まった。
「消防本部が国緊隊の準備に取り掛かった」
「アルジェリア地震ですね」
「ああ。アルジェリア政府からの要請はまだだが、要請され次第向かう。海上保安庁から、第一陣四名、第二陣十名、出す事になった」
「はい」
 そこへ、黒岩がやってきた。
「真田を連れて行く」
 基地長が国際緊急援助隊の名を出した時点で、嶋本には真田が選ばれる事は予想ができた。「連れて行く」という事は、黒岩も選ばれたのだろう。黒岩がいるならば、真田を外に出すことに対して不安はあまりない。だから、嶋本にはその決定をすんなり受け入れる事ができた。
「そうですか。いってらっしゃい」
 しかし、黒岩は言った。
「いってらっしゃいじゃねぇよ。お前も来るんだ」
「は?」
 これは予想していなかった。
「黒岩さんいるなら大丈夫じゃないですか」
「残念ながら俺は副団長だ。真田につきっきりになるわけにはいかねぇんだよ」
「……。だとしても、三隊はどうするんですか」
「一ノ宮に任せる」
「……」
「お前らには、救助というより生存者捜索をしてもらうことになると思うから、準備しておけ」
「……了解しました」
 嶋本はしぶしぶ返事をした。
 その日、基地のテレビは、ずっとアルジェリア地震の報道が流れていた。
 朝八時半の時点で九五名だった死者は、十二時には五百名まで膨れ上がった。
「嶋本、貧乏ゆすり」
「あ、すいません」
 もどかしい。要請がなくては出動できないなんて。
 そんな状況を、嶋本を、冷静に見ることができるのは、もちろんロボットくらいだ。黒岩も、貧乏ゆすりこそしていないが、その表情はいつも以上に硬い。
 垂れ流しになっている報道では、死者数・負傷者数がどんどん増加していく。
 アルジェリア国政府から日本への要請が出たとき、死者数は千人を越えていた。

 

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