ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 19

 

 地震発生から一週間。国際緊急援助隊は早くも解隊、その使命を終えた。
 日本の救助チームは異例の速さで生存者を次々に発見。救助に来た他のどのチームよりも多くの生存者を救出した。そして、多くの遺体を収容した。
「よーう、シマちゃーん。大活躍だったんだってー?」
 一ノ宮は、一週間ぶりに基地に現れた嶋本を見つけるなり絡んだ。がっしりと肩に手を回して逃がさない。
「ええ、そりゃもう! てか、そんなに話広まってるんすか?」
「広まってるよ〜。シマちゃん余震に巻き込まれた事まで広まってるよ〜」
「ぅわー……」
「そのことで基地長が話聞きたいって。黒岩さんが先に基地長室行ってるわ。行っといで」
 言うと、一ノ宮は嶋本の背中をポンと押した。

 基地長室に入るなり、嶋本はソファへと促された。二人は嶋本を待っていたようで、何の前ふりもなく本題に入った。
「余震に巻き込まれて、救出されるまでの間のこと、知りたくない?」
 基地長が聞いた。
「……知りたくないですね」
 嶋本はわずかに嫌そうに即答した。
 黒岩は呆れたように言った。「お前なぁ、」
 しかし嶋本は全てを聞かずに言葉を紡いだ。
「なんとなく、わかります」
「あん?」
「真田さん、動かなくなったんじゃないですか?」
「……。そうだ」
「なら尚更、知りたくないですね」
 頑固な嶋本に、基地長が声をかけた。
「嶋本君。私に判断材料をくれないか」
 判断材料――
 何を判断するのか、嶋本は聞かずともわかった。そして、自分で判断する必要がなくなったことを思い出して、嶋本は少しだけ、気が楽になった。「……わかりました」
 しかし、知りたくない事に変わりはなかった。知ってしまえば、また後悔してしまう。また期待してしまう。
 真田へのこれまでの接し方を後悔してしまう。
 真田が自分を特別に思ってくれているのではないかと、期待してしまう。
 だから嶋本は、そんなことにはならないよう、できるだけ他人事のように聞いた。
「俺が余震に巻き込まれたとき、真田さんには黒岩さんがついてたんでしょう? 真田さんはどんな様子でしたか?」
「なんだ、お見通しじゃねぇか」
 そして黒岩は話し始めた。

 余震が治まって、周りを見渡したとき、あいつは既に瓦礫の山へと走り出していた。だが嶋本、お前の姿が見当たらないから聞いたんだ。嶋本はどうしたってな。そしたら一言。巻き込まれた、とだけ言って瓦礫の山へ登っていった。そして一人素手で瓦礫の除去を始めたよ。
 あいつは取り乱していた。お前が余震に巻き込まれて、うろたえていた。……お前は、そう見えただけだと言うんだろうがな。
 ようやく追いついて、落ち着けと怒鳴ったら、あいつはこっちを振り返ってから、動きを止めた。瓦礫の除去を止めたんじゃなく、何か他の、重い処理を始めたんだ。
 真田をひとまず邪魔にならない所に移動させて、お前を救出する指示を出した。大変だったんだぜ? 真田が使い物にならないから、作業効率が大幅にダウンした。まあ、それだけお前らが活躍してたってことだがな。
 で、まあ、俺はと言えば、お前がいないから真田につきっきりになるしかなかったんだが、それがまた面倒臭かったんだ。処理を終えて動きだした真田に状況を話すと、すぐまた何か処理を始めて動かなくなった。次は比較的すぐに動き出したが、さっき話したばかりの現状をまた聞かれて、話すとまた動かなくなった。その繰り返しだ。あまりに続くもんだから、途中で電源切ってやった。次に電源を入れたのは、お前が見つかってからだ。するとどうだ。次は動きを止めなかった。

 嶋本はこの話を、とても他人事のようには聞けなかった。
 真田が自分のために走り出したことが、たまらなく嬉しかった。
 自分のために取り乱したことが、信じられないくらい嬉しかった。
 何度データを初期化しても、自分を助けたいと思ってくれたことが、涙が出そうなくらい嬉しかった。
 だがしかし、喜んでいる場合ではない。
 喜んではいけない。
 想いがつのるような事があってはならない。
 だって、真田は近い将来破棄される可能性があるのだ。
 何より、破棄を提案したのは、自分だ。気持ちの整理は、つけたはずじゃないか。

 嶋本は、握る拳に力を入れて、募る想いを誤魔化した。

 

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