ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 20
「嶋本。この真田の様子を、お前はどう取る?」
黒岩の問いに、嶋本は平生を装って答えた。
「そもそも真田さんは、特殊海難に対応するために、レスキューするために、開発されたロボットです。だから、俺が余震に巻き込まれたことがわかって俺を救助しようとすることは、何もおかしな事ではありません。要救助者を救助する事のみらず、部下を生きて帰すこと。それが隊長の使命であることもインプットされています。だから、取り乱したように見えたのも、無理はありません。問題は、何か重い処理をしていることです。この処理が何か、黒岩さん、わかるでしょう?」
「わからねぇから聞いてるんだ」
「なぜ? 自分で言ったじゃないですか。さっき話したばかりの現状をまた聞かれたって」
「ああ?」
「何か重い処理をした後、データの一部がなくなっていた……」
嶋本は暗に、真田が初めてデータを初期化したときのことを言った。
「あ……。するってぇと何か? あの瞬間、ロボの中に何か感情が芽生えたってのか??」
「ええ」
「だがお前、その後に、現状を話しただけでまた動かなくなったのはどう説明するんだ。そんな短時間で感情が芽生えるはずないだろう?」
「そうですか? 俺が真田さんの立場だったら、現状を聞いたらこう思いますよ。『助けな!』……黒岩さんも、思うでしょう?」
「そりゃ思うが……。それがどんな感情だってんだ」
「欲です。『助けなければ』というのは一見ただの意思ですが、それは『助かって欲しい』『助けたい』と言う、欲なんです」
「欲……」
「ええ」
しかし黒岩は何か腑に落ちない点があるらしく、腕組みをして考え込んだ。そしてしばらくして、やっぱり変だ、と言った。
「要救助者を前にした時は? 今までこんなこと一度も無かったじゃないか。今の話だと、要救助者を前にしたとき毎回今回みたいな事になってないとおかしい。それはどう説明するんだ」
「それは要救助者だからです」
「はあ?」
「要救助者を前にしたときは、要救助者を前にしたときのプログラムが走ります。でも今回は、救助の対象がただの要救助者ではなく、俺でした。走るプログラムが違います」
「どう違うんだ? さっぱりわからん」
「……要救助者が、魁一君だったら? それでも黒岩さんは普段どおりに救助できますか?」
「……っ」
「そういうことです」
「……」
そして二人が黙り込んだ所で、それまで聞いていただけだった基地長が口を開いた。
「それなら良いんだ」
嶋本は驚いて基地長を見た。
「初めて出たバグだとか、わけのわからないエラーが出たとか、そういうことじゃないなら良いんだ」
基地長はいつもの笑顔で言った。
「今回はメンテナンスに出す必要も、何の必要もないね」
「え……。何の必要もないですか」
嶋本は破棄のことが気になった。基地長は答えた。
「うん。何の必要も無い」
今回のことでは、欲のプログラムが生成されたとは、百パーセント言い切れない。嶋本の仮説が正しいとしても、欲のプログラムが生成、もしくは実行される前に真田は動かなくなった。それはつまり、人への脅威は無いということ。
破棄の件は、ひとまず先延ばしにされた。
アルジェリアでの地震以降、嶋本は基地長を通じて様々な所からロボットの評判を聞いた。いずれも最後には「我々も導入したい」と付いていて、一時使い物にならなかったことは、大きな働きの前では取るに足らないことのようだ。
「そら、あんだけの働きをしてくれるんやったら、導入したくもなりますよね」
好きにすれば良いとでも言いたげな嶋本に、基地長は驚いた。
「他の所はロボットを導入しても良いの?」
真田の破棄は提案したのに、無責任に思ったのだろう。嶋本は正しく汲みとって、全く関係がないことを説明した。
「だって、目的や用途が違うんですから、真田さんと同じものを導入するわけにはいかないでしょう? だから、良いんです」
しかし基地長はひかなかった。
「でも、新たに開発されたものが、感情や自我を学ばないとは限らないだろう?」
嶋本は慎重に言葉を選んだ。
「それが、その可能性は限りなく百パーセントに近いんです。だって、感情や自我なんてもの、プログラムできないんですから」
「じゃあ、真田君はどうなるんだ」
「それなんですよね。わからないんです。でも、だからこそ……危険です」
基地長はそれ以上何も聞かなかったので、嶋本も何も言わなかった。
