ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 21
どうも、疲れが取れない日が続いている。だから嶋本は、どうしたものかと少し悩んでいる。これでは、部下に示しがつかない。
当直の日、ボケっとパソコンとにらめっこしていたら、視界の隅にマグカップが入ってきた。高嶺だろうといつものようにお礼を言えば、そこにいたのは佐々木だった。
「って小鉄お前か。気ぃ利くやん」
「いや……。俺のあくびが移ってるみたいだったんで」
「あくび? しとったか? てかお前、職務中にあくびたあ、ええ度胸しとるやないか!」
少しすごんで見せれば、佐々木は「え、いや、その」と、いつものようにひるんだ。その様子に嶋本は、ぷ、と一つ噴き出した。
「冗談や。俺もあくびしとったんやろ? 流石の俺もそんな理不尽な叱り方ようせえへんわ。……こんなんなったらあかんで。今のはお前のために反面教師したったんや」
「はあ……」
「俺ってばめっちゃ優しいなぁ!」
「……はあ」
「……。お前は相変わらずおもんないな」
「……」
嶋本は一口コーヒーを飲むと、パソコンに向き直った。それを合図に佐々木はその場を離れた。横目にその姿を追えば、真田のもとへと移動して、何やら話を始めた。
佐々木がイライラすると言った日から、まだ三週間程も経っていない。しかもその内の七日間を真田共々離れて過ごしたので、嶋本は佐々木の様子をいまいち計りきれていなかった。
まあ、コーヒー淹れてくれるくらいやから、もうイライラしてへんのかな……
様子を見てわからないのなら、近いうちに確認しよう。そう決めて、嶋本はデスクワークに本腰を入れた。
その日の仮眠は、嶋本は布団に入るなりすぐ眠りに着いた。
そして、酷く疲れる夢を見て、またか、と思った。夢を見ているのだと自覚してすぐさま起きようとしたが、金縛りにあったように動けなかった。しばらく金縛りと戦っていると、トクン、トクン、と一定の振動がどこからか伝わってきた。そして、聞き覚えのある声の「大丈夫、大丈夫だよ」の言葉で、ようやく動けるようになって、目を開けることができた。
目を開けて、驚いた。
自分は横になっているものだとばかり思っていたのに、上体を起こされ真田に抱きしめられていたのだ。
「ぅえ? ちょ、隊長??」
目覚めたことがわかると、真田は素直に嶋本を解放した。しかし、嶋本の肩に手は乗せたまま、
「良かった」
と一つ微笑むと、ゆっくりと嶋本の首もとに顔をうずめた。
「!! 真田さん? 真田さん?」
嶋本は驚いて、慌てて、その体を解こうとして、気付いた。
熱い。
そのまま頭に耳を近づければ、カリカリカリ……という音と共に、少し離れた場所から足音が聞こえた。
ハッと顔を上げれば、ドアの前で佐々木が見てはいけないものを見たような顔をしていて、目が合うなり駆け出した。
「ストップ! 小鉄ストップ!! 戻れ!」
叫んで、嶋本は真田を壁にもたれさせた。
佐々木は、そっと中の様子を覗ってから入ってきた。嶋本は佐々木を正面に座らせた。
「逃げることないやんか」
「いや、その……」
なんだか落ち着かない佐々木を無視して、嶋本はニッコリと笑って見せた。
「まぁええわ。いい所に来た佐々木君に、聞きたいことがあります」
佐々木の背筋が伸びる。
「何があったん、俺に。俺に何かあったから、寝てる所に隊長やお前が来たんやろ?」
すると、佐々木はやはり視線を逸らせて、しかし、声を振り絞った。
「……うなされてたんす、嶋本さん」
「……あー」
情けない姿を見られた。しかし、嶋本は実際、金縛りに遭ったような状態だったので、傍から見ればそう見えたかもしれない、と考えた。
「それで、何で俺は隊長に抱きしめられとったん?」
「え? 嶋本さんが抱きしめてたんじゃないんですか?」
「はぁ?」
その声に佐々木はひるむ。その様子に、本当に抱きしめて見えたのだろうと嶋本は判断した。足音が聴こえたとき、その時が、佐々木が様子を見に来た瞬間だったのだろう。きっと、ずっと見ていたわけではないのだ。
「あんなぁ、小鉄」
「はい……」
「隊長は今、どないしてる?」
聞かれてようやく、佐々木は真田が壁にもたれかかって動いていない事に気が付いた。
「あれ? どうしたんすか?」
「フリーズや。お前が見たとき、俺はまさに、隊長のチェックをしとったんやな」
その言葉に、佐々木は少し考えた。そしてポロリと言ってしまった。「……あんなにくっついて?」
言ってしまってから、佐々木は慌てて身構えた。何か、罵倒か、拳か、蹴りでも飛んでくるかと思った。しかし嶋本は特に怒る様子はなかった。
「しゃあないやん。急にもたれかかってきてんもん。何が起こったかわからんのに、下手に動かされへん」
「……」
「納得した?」
「……はい」
その返事に、嶋本は満足そうに一つうなずいた。
「ほんなら、質問を変えます。うなされとった俺を起こしたのは隊長でした。でも、佐々木君は俺がうなされとったことを知ってます。なぜですか?」
佐々木は先ほどの反省を生かして、慎重に言葉を選んだ。
「……嶋本さんがうなされてるのに気付いたのは、俺です。凄くうなされてて、でも、どうすれば良いかわからなかったから、高嶺さんに聞いたら、起こそうってことになって。でも、誰が起こそうとしても、嶋本さん起きなかったんです。最後に、隊長が起こしに行って……」
「お前が様子を見にきたら、俺が隊長を抱きしめとった、と」
「はい……」
全てを言わせてもらえず、思わず体を縮こませた佐々木であったが、嶋本の気の抜けた返事に、すぐに顔をあげる事ができた。
「ふぅん……」
嶋本は何やら考えているようだった。しかし嶋本はすぐにいつもの顔に戻った。
「ほな俺もう一眠りするから、みんなに嶋本さんはもう大丈夫ですっつっといて。隊長はなんでかフリーズしてますが嶋本さんが言うにはすぐに動き出すそうですーって」
「隊長、何か異常があるわけではないんですか?」
「ああ。ちょお、重い処理走ってるだけやから、それ終われば動き出す」
言うと、佐々木は納得したのか興味が無いのか、大した反応も見せず、「わかりました」とだけ言って仮眠室を後にした。
