ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 24

 

 後日嶋本は基地長室へと足を運んだ。
 そこには先客がいて、話を終えたところのようだった。
「おお、嶋本。来ると思ったぜ」
 黒岩が、どこか嬉しそうに手をあげた。しかし嶋本にはそれが全くと言って良い程気に食わなかった。先手を取られたのは、手に取るようにわかった。
「そこへ座って」
 基地長は嶋本を黒岩の隣に促した。
 黒岩がその場を離れる様子はなかったし、基地長もそのつもりのようだ。
 それならそれで構わない。嶋本は、一枚の紙を差し出した。
「これは、真田さんがフリーズした時の様子を書き出したものです」
 基地長が紙を手に取ると、嶋本は続けた。
「真田さんがフリーズしたのは、そこに書かれているので全てです。そして、全てに共通するのが、俺の存在。俺がいないときでも、フリーズとか、ちょっとしたことなら何か起きてると思っていたので、まさかそれで全てとは思いもしませんでした」
 基地長が紙から目を離すのを待って、嶋本は続けた。
「真田隊副隊長が、真田隊長の妨げになるなんて、本末転倒です」
 基地長も黒岩も、その言葉を待っていたかのように、わずかに身を乗り出した。
「今、そのことについて話してたんだよ」
「お前がそう言い出すのは予想できた。だが嶋本。真田隊副隊長は、可能な限り真田の側にいなきゃならないんだ。偶然かもしれないだろう?」
 しかし嶋本にも、そう言われることが予想できていた。
「偶然とは、考えにくいんですよね」
「何?」
「黒岩さん、前、言いましたよね。隊長は今も俺を慕ってくれてるって」
「だがお前、それは、そう見えるだけの話じゃないのか」
 その問いに、嶋本は握る拳に力を入れた。これまで、真田を守るために隠してきていた事を、話すときが来た。でも、それも全ては、真田を守るため。
「多分、ほんまに慕ってくれてます。……今は直してますけど、以前、隊員の中で俺だけ優先順位が高い事があったんです」
「……それは、プログラム的には考えられない事なのか」
「プログラムと言うか、OSの話になってくるんですけど……考えられない事ではないです」
「なら、それは慕っているということにはならないんじゃないか?」
「それが、感情がもたらす思考の機微を学習したからプログラムが変化したんだろうって。真田さん、自分で言ったんです」
「……」
「それだけじゃない。黒岩さんも見たでしょう? 隊長の中の隠されたデータ」
「ああ……」
「それに、言われたんです。嶋本が副隊長で良かったって。次も、副隊長をやってくれるかって……」
「……わかった。それで、慕ってることが、どう繋がるんだ?」
「簡単です。慕ってるから、新たな感情が発生しやすい」
「……わからないな」
「知らん人と出会って、徐々に仲良くなるのと同じことです。相手に対して、情が生まれる」
「ふむ……」
「そしてそれは、俺にも言えることです。黒岩さんには、話しましたね」
「ああ……」
「基地長。俺にはもう、隊長を見捨てる事はできません。俺を、真田隊から外してください。そして、真田さんから俺のデータを全部消去して、俺も、どこか遠くへ行かせてください」
「……そこまでしなくちゃいけないの?」
「はい。そうしなければ、いつまで経っても、隊長は俺に情を移してしまうし、俺も口出しせずにはいられません」
「そっか……。わかった。考慮しよう」
 言うと、基地長は嶋本だけを退出させた。嶋本は、黒岩も退出を命じられなかったことには、何の疑問も抱かなかった。今の話を受けて、二人でこれからのことを話すのだろう。そう思った。それは正しいことではあったが、その内容は嶋本が考えもしないことだった。

 ドラフト会議。次の隊編成を決める会議。その会議には、隊長と真田隊副隊長しか呼ばれない。
 嶋本は今回は呼ばれないものだとばかり思っていた。もちろん、特殊救難隊から異動する気まんまんだったからだ。
 しかし、呼ばれた。真田隊副隊長として、ドラフト会議に呼ばれた。
「なぜですか!」
 嶋本は基地長室で声を荒げた。
「だって、君がいなくなったら、真田君は誰がみるの? 君ほど真田君をわかってる者なんて、一人もいないのに」
 基地長は当たり前のように、嶋本のこの反応をわかっていたかのように、いつもの笑顔で言った。
「それは……」
 考えてもみないことだった。嶋本には、その点で反論する事ができなかった。
「もちろん、嶋本君の言い分もわかるよ。だからね、今回は、ただ、真田隊副隊長をしてもらうわけじゃない」
「……」
「次期真田隊副隊長、それから、真田隊副隊長候補を、育ててもらおうと思ってね」
「はあ……」
「だから、次のドラフト会議。隊のバランスを考える事はもちろんだけど、真田隊副隊長に見込みのある者を集めてね。その中から、次期真田隊副隊長を選ぼう」
「はい……」
「その後、どこに行ってもらうかまではまだ決められないけど。君の要望通りにするよ」
「……はい。……あ、あの、真田さんが人間の脅威になる可能性がないとは言い切れないことも忘れずに、お願いします」
「そうなの?」
「もちろんです。真田さんがこれから誰に情を移すかなんてわかりませんから」
「きびしいね」
「あたりまえのことです」
「そうだね。そんな君を、私は誇りに思うよ」

 そして、新隊が編成された。
 三隊隊長・真田、副隊長・嶋本、以下、高嶺、佐々木、新人の大口に、安堂。
 副隊長も三年目。そして、副隊長最後の一年間。不安はまだまだ多く残っているが、嶋本にはうまくやれる自信があった。だって、この二年間多くの苦労をしてきたから。そして、その苦労はまだ報われてはいないけれど、これから一年間頑張れば報われることが約束されているから。
 嶋本は今も毎日考えている。本当に自分が離れる事によって問題が解決するのか。
 おそらく、解決する。
 あくまで、おそらく。100%ではないが、解決する可能性はある。
 なぜなら、ロボットが心を開いたの人物が嶋本しかいないため、他の者にでも心を開くのかがわからないのだ。ただ、開発されてからの十年間でロボットが心を開いたのは嶋本だけで、その上、嶋本と出会うまでは人間的な成長はほとんど見られなかった。だから、他の者に心を開く可能性は、ほぼ100%、ない。
 だからおそらく。解決する。
「シマ」
 三隊メンバーを確認したのであろう高嶺が、少し険しい顔をしてやってきた。その険しい顔は、ドラフト会議のときから予想できていた。
「おう。今年もよろしく」
 嶋本はいつもより幾分明るい声で言った。特にそこに他意はない。一見大変そうなメンバーだが、自分が楽するための考えに基づいた編成だからだ。
「このメンバー、私が入るから新人が二人なんでしょう」
「せやで」
「自分にどれだけ負担がかかるかわかってますか?」
「かからへんで?」
「かからないって……。自分の仕事の他に、隊長と新人二人をみなきゃいけないんですよ?」
 隊長がロボットなので、その隊の副隊長は必然的に他の隊の副隊長より仕事が多くなる。
「俺、隊長も新人指導も手ぇ引くねん」
 そう。仕事が多いなら、他の者にまわせばいいだけの話。そしてそれが、この隊の目的。
「隊長は高嶺に、新人指導は佐々木にさせる。俺はそのサポート」
「……サポートが入るなら私はまだしも、佐々木君は早くないですか」
「なんで? 去年教わった事教えるだけやで。そもそもあいつ無口すぎるねん。あんなんやったら、副隊長なれるもんもなられへんで。嫌でも喋る状況に置かな」
「最初からそこまで考えてのメンバーなんですね」
「当たり前や。ただ、一個言うとくけど、一年あると思いなや」
「一年?」
「俺、今年もひよこ隊見るから、半年で俺のサポートいらんようなってな」
 嶋本はニッコリ笑うとその場を後にした。
 真田の隣に並ぶ。
 こうして並ぶのも、今日が最後。
「三隊集合!」

 嶋本の、特殊救難隊最後の一年間が始まった。

 

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