ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 26
ある日。西海橋へ出動した。
真田が海へ飛び込んだ時。その時は既に、救助を終えて戻って来られるだけの時間が、ぎりぎりしかなかった。
ただしそれは、人間であればの話。
ロボットならば、渦に飲まれて深度50メートルの海底に沈められても、確実に戻って来られる。
しかしそれも、渦に飲まれる際の物理的な衝撃に耐えられれば、の話。
現場へ向かうヘリの中で既に真田が先頭を切る手はずにはなっていたが、逐一送られてくる情報に、救助方法を具体的にまとめられなかった。
だから嶋本は真田が飛び込む直前に、一言だけ叫んだ。
「必ず、戻ってきてください!」
しかし、浮上してきたのは要救助者と佐世保の隊員だけで。
「真田さんは今、エンジンルームで意識を失っています!」
隊員の報告によって真っ白になりゆく頭で、嶋本は一つだけ決断した。
「我々は、出動しない」
意識を失ったロボットなんて、ただの人形。
命の危険を冒してまで、最大深度50メートルの海底に人形をとりに行く事なんてない。
いや、これが高嶺であれ佐々木であれ、決して行かない。
だって、こんな状況で皆が助かる術を、知らない。
しかし、いくつもの奇跡が重なって、真田は助かった。
「何度、俺に見捨てさせる気ですか!」
羽田に戻って落ち着くと、嶋本は真田につかみかかった。
帰りの機内でも、自分の判断は間違ってなかったと言った。しかし、それだけでは気が治まらなかった。
本当に言いたい事は、これだ。
二年前にも、ロボットを見捨てなければならない事があった。しかしその事を、ロボットは報告書でしか知らないのだ。二年前に学習したことなら、初期化されてきれいさっぱり忘れてしまっている。学習できていないも同然だ。嶋本はそれが悔しかった。
そして、悲しかった。
「隊長が部下残して何してんすか! フリーズかなんか知りませんけど、外的要因以外の下らん事で、こんな決断させんで下さい! こっちはねぇ、心すり減らしてんですよ!」
まくし立てる嶋本に、ロボットはただただ驚きの表情を見せた。
ちっ。
嶋本は舌打ちをした。こんなことを言っても仕方がないことは、自分が一番わかっている。
「心は、すり減るのか」
真田は聞いた。
「気になりますか?」
「ああ」
「残念ながら、ロボットには知る必要がないんですよね」
嶋本はニッコリと微笑んだ。
「ロボットの利点は、呼吸の概念がないこと。痛みが無いこと。替えがきくこと。そして、心がないこと。心なんて、わざわざ学習する必要ないんですよ」
「では、なぜ俺に、心がすり減ることを訴える。気持ちをわかるべきだからではないのか」
「その事実を知り、以後同じ事を繰り返してほしくないだけです」
言って嶋本はログをとった。それが終了すると、まるで待っていたかのように、カリカリカリと小さな音が聞こえてきた。
