ロボと心と愛のカタチ 特救編後編 29
「すごいな、嶋本は」
河川敷に突き当たって、太陽を背中側にして歩くのは終了した。今太陽は二人の左手側にある。
「なんです、突然〜」
嶋本は、最も鮮やかに濃い青が正面になくとも、変わらず気持ち良さそうにしている。
「嶋本は、誰よりも俺のことをわかっていると思う」
「あ、それは自負してるし周りも認めてくれてます〜」
なんでもないことのように嶋本は言った。
「だからか」
「はい?」
「だから嶋本は、皆のように俺に何も言わないのか」
言いながらロボットは、今の気持ちを『寂しい』気持ちであると判断した。
「皆みたいにって……。こうならいいのに、ってことですか」
「ああ」
『こうならいいのに』
それはつまり期待や希望である。たった今嶋本が言ったことだ。しかし嶋本自身は、真田に対してそのようなことを言ったことはない。
それはつまり、何も期待されていないということ。
真田はそう判断した。
ところが、嶋本は言った。
「ありますよ」と、なんでもないことのように言った。
「言わへんだけです。非現実的にも程がある。言ったところで、絶対にどうにもならへんから」
言って、変わらずに歩き続ける嶋本を真田は気持ち覗き込んだ。
「聞きたい」
「え」
「聞かせてほしい」
「ええ〜」
「聞かせてくれないか」
「んんー……」
そしてようやく嶋本は真田の方を向いた。
「そんなに?」
「ああ」
「なぜ?」
「寂しかったから」
「はあ?」
「嶋本は俺に何も期待していないのかと思ったら寂しかった。でも、希望や期待があるのなら、嬉しい。答えたいと思う」
「あの、俺、つい今しがた、絶対どうにもならへん言いましたよね」
「ああ。だが、もしかしたら、どうにかなるかもしれない」
あまりに真っ直ぐな瞳を向けてくる真田に、嶋本は勝てなかった。はぁー、とあからさまにため息をついてみせると、おもむろに川原の斜面に腰掛けた。
「一休みしましょう」
言って、嶋本は自分の左隣をポンポンと叩いた。真田は素直に従った。
少しの沈黙の後、嶋本はぽつりと呟いた。
「真田さん、人間やったらええのに」
その言葉に、真田は目を見開いて嶋本を見た。
「そしたら、見捨てんですむのに。助けに、海へ飛び込めたのに。助けに、海へ飛び込めるのに。真田さんを見捨てることを視野に入れた救助なんて、考えんで済むのに」
「……」
「真田さんを否定するつもりはないし、真田さんを受け入れてるつもりではいますけどね。でも、事ある毎にそう思う」
「……嶋本は、優しいな」
真田は神妙に言った。
「だが、俺はそんなことでは騙されないぞ」
「は?」
嶋本の頓狂な声に、真田はニヤリと笑みを浮かべた。
「なんせ俺はロボットだからな。話を逸らそうったって、そうはいかない。俺の聞きたいことは、願望の先にある俺に期待すること、だ」
そしてまっすぐ嶋本を見た。
「はあ、まあ、そうですねぇ」
対する嶋本は歯切れが悪い。
話をそらしたつもりは毛頭ないのだ。それに、人間である真田に期待することなんて、考えた事もない。
いや、考えるまでもないことだ。
ずっとずっと、蓋をしてきた想いがある。条件さえそろえば別にロボットでも構わないが、人間であるに超したことはない。
「想いを、聞いて欲しい……です」
「想いを」
「ええ」
「それは、今の俺では駄目なのか」
「ええ」
「そうか」
ふわりと風が吹いた。
風に乗って、カリカリカリと音が聞こえてきた。
「やっとか」
嶋本はぽつり呟いた。
ロボットは返事をしない。瞬き一つしない。全く動かない。
「欲満たされるまで初期化されへんとか、恐ろし。メンテ出さな」
ロボットが再起動したのは、10分程経ってからだ。
「ここは?」
「散歩しとったんですけどね。できるだけ早く基地に戻る必要が出たんで、行きましょか」
「海難か?」
「ちゃいます」
「そうか」
嶋本は、行きとは違う道を選んで歩きだした。
目的地が分かっているので、ロボットは何も聞いてこない。
嶋本だけは散歩の続きのつもりでふわふわ歩いていたが、今のロボットには何もわからない。
「ふらふら歩くな。危ない」
「ふらふらですか」
「ふらふらしている」
「……はあい。…………あ」
返事をした矢先に駆け出した嶋本に、真田は「こら」と声をかける。
嶋本は何やら拾い上げると、嬉しそうに真田にそれを見せた。
「珍しい、ドロップ缶」
「珍しいのか」
「これ、蓋開けたら魔法使い出てきたりして」
「……魔法使いは、ランプを擦らないと出てこないのではないか」
「ここは日本ですからね、出てくるのは青いのやありません。江戸っ子魔法使いです!」
「江戸っ子……」
「っあー! お天道さんが眩しいったらねぇなあ!! おや、おいらを呼び出したのはお前さんかい?」
「……」
「好きな芸人のネタです」
「ほお」
「……お前はもう少し人間らしく話ができればなぁ、とか。お前はもう少しノリが良ければなぁ、とか。お前はもう少し人の気持ちが分かればなぁ、とか。言われた事があるんですって?」
「ああ」
「大丈夫ですよ。魔法使いに頼まんでも、ちゃんとそうなれてますからね」
「そうか」
「ええ」
真田が笑顔になったのを確認すると、嶋本はログを取って歩き出した。
ああ、
太陽が眩しい。
